駒場アクティブラーニングワークショップ「授業をアクティブにするためのふり返り」【開催報告】

カテゴリー: イベント

2022年9月14日、東大で授業を担当されている先生方を対象に、駒場アクティブラーニングワークショップ「授業をアクティブにするためのふり返り」を開催しました。当日は、5名の方にご参加いただきました。ここでは、当日の様子を報告します。

目的

アクティブラーニング部門では、昨年度末に「アクティブラーニングのための授業デザイン確認シート」をウェブサイトで公開しました。今回のワークショップでは、授業デザイン確認シートに基づいて、アクティブラーニングの観点から授業づくりの方法やポイントを確認します。また、これまで行った授業あるいはこれから行う授業のデザインを、アクティブラーニングの観点からふり返り、参加者どうしで共有し授業をアクティブにするための検討やより良い授業にするための意見交換を行うことを目的としました。

内容

趣旨説明の後、参加者どうしで自己紹介を行いました。自己紹介では、ワークショップで知りたいことや興味があること、達成したい目標を共有いただきました。 次に、授業づくりのステップを確認しました。学習目標の立て方や、あわせて評価方法も決めること、その後に教え方を検討するという流れを確認しました。その後、「アクティブラーニングのための授業デザイン確認シート」の「授業をつくる前」に参加者自身の授業のデザインについて記入しました。 休憩を挟んだ後、アクティブラーニングの定義についてミニレクチャを行いました。また、アクティブラーニングの手法として知っているものを書き出したり、授業をアクティブにするための工夫やうまくいったと感じた取り組みを共有していただきました。その後、アクティブラーニングのためのポイントや授業構成の仕方のミニレクチャを行いました。それを踏まえて、「アクティブラーニングのための授業デザイン確認シート」の「授業をつくりながら」に参加者一人ひとりが検討した内容を記入しました。それから、記入した「アクティブラーニングのための授業デザイン確認シート」をグループに分かれて共有し、チャックの観点に基づいて互いにコメントしました。 グループでのワーク後は、ワークショップ全体をふり返り、ワークショップで感じたこと(新しく知ったこと、印象的だったこと、もっと知りたいと思ったこと、疑問・質問)を書き出しました。最後に閉会の挨拶を行ってワークショップを終えました。

当日の様子と参加者の反応

当日は、参加者5名と少人数ではありましたが、グループでの議論の時間を多くとり意見交換を十分におこなっていただけたように思います。また、ワークショップ後のアンケートでは、「本ワークショップで扱った内容をご自身の授業に活用できると思いますか」、「本ワークショップによって、今後の授業をアクティブにできそうですか」という質問に対して参加者全員が「とてもそう思う」と回答くださいました。加えて、本ワークショップで学んだことをどのように活用しようと考えているかという質問について、学生が一人で考える時間をもう少し与えたいや、小テストやワークをGoogleドキュメントに書き込むといった具体的な回答がありました。 また、「アクティブラーニングのための授業デザイン確認シート」の改善点も挙げられましたので、今後はシートを改善し第2版を公開したいと考えています。

お問い合わせ

教養教育高度化機構アクティブラーニング部門 dalt[at]kals.c.u-tokyo.ac.jp ※[at]を@に書き換えて送信してください

はじめての「大福帳」

これまで、アクティブラーニング部門のウェブサイトなどで「大福帳」についてご紹介してきました(オンライン授業で大福帳を使うオンライン授業で大福帳を使う:運用のふり返りと改善)。

今回は、2022年度Sセメスターにアクティブラーニング部門で開講した全学自由研究ゼミナール/高度教養特殊演習「SDGsを学べる授業をつくろう」で、初めて「大福帳」を使った中村長史先生(アクティブラーニング部門 特任助教)に「大福帳」のメリットなどをお伺いしました。

「大福帳」を使ったメリット

中澤 大福帳を使ってみて感じたメリットはありますか?

中村 メリットとしては2つあるかなと思っています。1つ目は学生に対して“見守ってるよ感”を出すのはメリットかなと思ったんですよね。僕たちのやってた授業って、そんなに人数も多くなかったですし、かなりアクティブラーニングの授業で、もちろん授業中もかなりコミュニケーションを学生と取れてたと思うんです。けれども、次の授業までの間にもコミュニケーションを取る機会があるっていうのは、すごく良かったんじゃないかなと。学生からしてもきっと“見守られてる感”みたいなのがあって良かったんじゃないかなと思ってます。

もう1つは、学生にとっても僕たち教員にとっても、授業で学んだことを振り返って可視化する機会になることです。これは、僕が想像してた以上に大きいんだなと思っていて。アクティブラーニング型の授業だから、そういう機会をわざわざ明示的に設けなくても大丈夫だろうという気持ちがどこかにあったんですけれども、実際やってみると、―まあ学生がどう感じているかは学生に聞かないと分からないですけども―僕自身が、自分が授業でやったことについてのフィードバックをある種もらうわけなので。それを基に、じゃあ次の授業こういうふうにしようって、すぐに反映できるという意味で良かったなと思ってます。学期末のアンケートも活かすようにしてるつもりなんですけど、それを活かせるのは次の年なので。すぐにフィードバックがある、活かせる機会があるという意味で良かったのかなと思ってますね。

中澤 これまで、他の授業ではコメントペーパーやミニッツペーパーを使用されたことはないんですか?

中村 毎週課題を出して、課題に対してコメントすることはあるんですけども、学生が授業を受けた感想についてコミュニケーションを取るってことはなかったんですよね。それをできたのが、2つ目のメリットですよね。1つ目の“見守ってるよ感”は、課題にフィードバックをしてたら感じられるんでしょうけれども。実は、自分が学生の時にミニッツペーパーを書いたことがあるんですが、その時にフィードバックを特に先生がなさらなかったんで、毎回ただ書かされてるだけと感じたんです。「めんどくさいな、またこの時間に書くんでしょ」と、惰性でやってたのが頭にあったので、自分が教員になってからも敬遠してたんです。今回、中澤先生と一緒にやる授業の中で導入してみて、効果を確かめられたということです。学生が本音を書いてるかどうかは分かんないですけど、彼ら彼女らの感想っていうものが出てきて、それについてこっちもフィードバックする過程で考えられるっていうのは良かったなって思ったってことですね。

中澤 ミニッツペーパーは、出席代わりで出させてるっていう先生が多いですよね。確かに、学生のメリットっていう点だと少ない感じはしますね。

「大福帳」のデメリットや運用の工夫

中澤 逆に、デメリットとか、改善点は何か感じられましたか?

多人数への対応

中村 人数が多いと大変だなと思いました。他にもいろんな授業とか業務がある中で、どこまでそこに時間を割けるかっていうのは、人数が増えた時にはちょっと分からないなと思ってて。これまでにもずっとやってこられて人数が多い時もあったと思うので、何か工夫されてることとかがあれば逆に教えてほしいですね。

中澤 そうですね。大福帳は先行研究でも色々なことが言われていて。人数が多い場合とかだと「見ました」というスタンプを押すとか。コメントは書かなくても、さきほどの“見守ってるよ感”を出す簡易的な方法を取るのは一つの手だっていうのはありますね。人数が多い場合はそういうものでもいいのかなと思いますね。あとはコメントをする人数をあらかじめ決めておくとか。

中村 ああ、なるほど。

中澤 たとえば、100人学生がいたら毎回20人ずつコメントを書き、他の学生はスタンプにするのも一つの手かなと思いますし。あるいは、質問にはコメントを書いて、感想だけの場合はスタンプでというやり方もあるのかなと思いましたね。

中村 ありがとうございます。今そのお話聞いてて、僕が最初に挙げた2つのメリットってのは、どっちも活かせるなと思って。スタンプであっても見てることには変わりはないので、“見守ってるよ感“っていうのは感じてもらえると思いますし。それから、教員が詳細にコメントするしないにかかわらず、学生が書くこと自体には変わりがないので、学生自身の振り返り、イメージ的に可視化できることにはなりますし。コメントしないにしても読むことには変わりはないので、教員にとっての振り返りや授業改善に活かすこともできるので。そういう意味では、人数が多い場合は無理に全員にコメントバックしようとせずに、おっしゃったようなやり方でやっても、同様の効果を得られるのかなと思いました。

学生からのコメントや質問を共有する

中村 あと今思い出したのは、一つ自分なりに工夫したことがあって。学生から出てきたコメントや質問でいいなと思ったものを、次の授業の冒頭で紹介するようにしていて。そうすると取り上げられてうれしいって気持ちも、もしかしたらあるかもしれないし。あと同じクラスメイトから出てきたもので、「あ、こんなこと考えてる人もいるんだ」みたいなことで他の学生の刺激にもなると思ったので。それは、自分なりに工夫をしてみたつもりですね。そうしないと何か学生から、何か毎回書かされて、書けって言われるから書くみたいな、なんかちょっとそういう、義務だから書くみたいなになっちゃうともったいないなと思ったので、そういう仕掛けをしてみたつもりです。

中澤 そうですね。私は、学生が大福帳に書いた質問のうち、これは全員に共有しておいたほうがいい質問だなっていう場合は授業で紹介しますね。ただ、授業で紹介できるのって時間の都合で1つだけだったりとかするので、Googleスプレッドシートに質問とそれに対する回答を書き出して、それを共有するっていうふうにもしてますね。

中村 あ、なるほど。

中澤 他の人から出てきた質問で皆さんにも知ってもらいたいことはここに載ってるので見てくださいと案内をします。どの程度見ているかは分からないですけど、スプレッドシートに質問と回答が蓄積されているということですね。

中村 それはすごくいいですよね。次の年に授業をする際にも、去年どんな反応があったかなって見る時も、そうやって整理されてるといいので。確かにそれはちょっと僕もやってみようかなと思います。

中澤 そうですね。あと、そういったことができるのはオンラインでの大福帳だからだと思っていて。これが紙の、―対面だと昔は紙でやってたんですけど―そうするとなかなか手書きでコメントを書くのも大変なので。学生も大変だと思うんですけど。

中村 回収も大変ですもんね、大人数だと。それ用のTAさんがいたりとかね。

中澤 そうそうそう。授業時間中に大福帳を書く時間を取らなくちゃいけなかったりするので。オンライン大福帳というのも、それ自体がメリットかなと思いますね。

あらゆる授業で活用できる

中澤 どのような授業で活用できそうというアイデアはありますか?

中村 そうですね。導入する前の僕の感覚としては、大人数の、ちょっと工夫してても一方向にどうしてもなりがちな授業で導入するといいんじゃないか、もう何ならそれだけで導入しとけばいいんじゃないのって思ってたんです。それ以外のいわゆるアクティブラーニング型の授業の場合は、それをするまでもなく学生とコミュニケーションを取ったりする機会もあるし、と思ってたんですけど。今回、少人数のアクティブラーニング型の授業で導入してみてとても効果を実感できたので、今となってはどの授業でも導入するといいのではないかなと思いますね。どの授業で導入する必要性も高いんじゃないかなと思ってます。気になってたのは、人数が多いとちょっと先生が大変っていう問題ですけど。それも工夫次第で乗り越えられる、同様の効果を得られるってことも分かったので。そういう意味で、今となってはすっかり大福教、大福教? 大福帳。大福教とか言っちゃった(笑)。大福帳信者になってしまったかもしれない。

中澤 ミニッツペーパーだとやっぱり1回限りで終わっちゃうのは悲しいなって、すごく私は思っていて。13回分が載ってるっていうのは、こちらにとっても学生にとってもいいし。やはりそれが大福帳のメリットなのかなっていうのは思いますね。

中村 そうですよね。逆に言うと、ミニッツペーパーでも問題ないですよってなる場合は、その先生の授業をちゃんと構造化できてますかみたいなことがあるのかなって、今伺ってて思ったんですよね。ある程度構造化されてると、学生の反応がその回によってどうなるのかっていうのが気になるわけなので。ぶつ切りだと、困るっていうところがありますから。そういう意味でも、自分の授業がちゃんと構造化されてるのかしらっていう判断する一つの材料かもしれないです。

中澤 確かに、13回の大きな流れでの授業づくりがどうなってるかっていう、点検にもなりますね。

中村 そうですよね。

中澤 今回の授業では、最終回の授業で大福帳を読み返してみましょうという時間をつくって、学生に授業自体の振り返りをしてもらったんですけど。なかなかミニッツペーパーだとそれが難しいかなっていうことがありますよね。Googleフォームで毎回コメントを出してもらって、それを何らかの形で見てもらうとかは、もしかしたらできるかもしれないけですが。大福帳はプライベート感があるというのも、私は個人的にはいいかなと思いますね。

中村 そうですね。連絡帳みたいな感じがあっていいかもしれないですね。

中澤 そうですね、交換日記みたいな感じで。

中村 交換日記みたいな、そうそう。

中澤 あと何か補足などありますか?

中村 そうですね。これを読んでる先生も、大福帳は自分の授業では関係ないかなと思ってる人も、1回ちょっとだまされたと思って。そんなに手間は思ったほどはかからないので、やってみるといいんではないでしょうかというのが、1回初めてやってみた僕からのメッセージです。

中澤 そうですね、私はもう大福帳信者で、どんな授業でも基本使ってしまっているので、新しい視点から話を聞けて良かったです。ありがとうございます。

中村 ありがとうございました。

同期型ハイブリッド授業でのアクティブラーニング:初年次ゼミナール文科 岡田晃枝先生インタビュー(2)

SセメスターにKALSで同期型ハイブリッド授業を実施されていた岡田晃枝先生(大学院総合文化研究科 准教授)に、授業の様子や授業運営のポイントをお伺いしたインタビューのつづきです。一つ目の記事は、こちらからどうぞ。

授業運営の様子やポイント

対面授業と変わらない運営を心がける

中澤 ファシリテーションはどうでしたか?

岡田 ハイブリッドになったことで大きく変えるということはしませんでした。その日だけ変えると、オンライン参加の子たちが「自分のせいで」と萎縮してしまったり、教室で受けてる子たちが、自分がハイブリッドをお願いしたらこんなふうに授業の構成変わるんだと思うと不安になるかなと。ですからあえて変えないようにして、いつも通りの授業を行えるようにと考えました。私の場合は、全体に対して私とTAからのワンポイントアドバイスと、学生どうしのグループディスカッションを交互に行うというのがルーティンの形です。授業の回によって構成が違うといったことはなくて、毎回ほぼ同じ流れなので、同期型ハイブリッド授業があるかないかで授業回を入れ替えるような必要はなくて、その点では楽でした。もしかしたら講義型の授業で、グループディスカッションを取り入れる回と取り入れない回があるような場合は、オンライン参加の子がいるかどうかで構成を変える必要が出てくるのかもしれないですね。手間やトラブルのリスクを考えると、オンライン参加の子がいる時にはグループディスカッションを入れずに講義だけにしたいと思われる先生もいらっしゃると思うので、そうなると13回全体の流れが、オンライン参加の子がいるかいないかで変わってきますよね。コロナ欠席の学生が出るかどうかは授業直前にならないとわからないことが多いから、それだと大変だろうなと思いますし、授業全体の構成という面から見ると好ましい状況ではないですよね。

そう考えると、今後もハイブリッドでの対応が継続的に必要になるのであれば、いつどの回でハイブリッドが入っても大丈夫なように備えておくことが必要になるかもしれないですね。でもその結果、全部が講義型の、受動的な学びの授業ばかりになるのは学部教育全体から考えて良いことではないと思います。

中澤 対面だとグループディスカッションの様子を見に行ったりされると思うんですけれども、同期型ハイブリッド授業の場合は、どのようにされていましたか?

岡田 教卓に自分のパソコンとKALSのパソコンを用意して、KALSのパソコンでブレイクアウトルームに入っていました。ブレイクアウトのほうに入るパソコンと、全体を見るパソコンの2台を置いていたということです。

教室の中のグループは観察していれば声や学生たちの行動で介入が必要かどうかわかりやすいですよね。先ほど言ったようにオンライン参加の学生がいるグループのテーブルをウェイティングルームにセットしていたので、そのグループの声は教室内にいると聞こえません。だから教室全体を見回しながら、ブレイクアウトルームに入っているほうのパソコンで時折小さい音声でウェイティングルームのグループの状況を確認していました。ただ、隔てているのがガラスなので視覚的な観察はできますし、扉を半開きにしていたので教室内を机間巡視するついでにウェイティングルームのグループにも直接声を掛けられる状況でもあったので、それほど問題はなかったです。

別の教室で行った時は、オンライン参加の学生がいるグループのテーブルを、他のグループから少し話して教卓の近くにセットすることで、ディスカッション用のミーティングオウルのマイクで私の声も拾えるし、グループディスカッションの時にそのグループが使っているPCのモニターを教卓から確認できたので、教室が狭ければ狭いなりに、グループディスカッションと全体での講義の移り変わりをうまくやる工夫は可能でした。

中澤 グループディスカッションのモニタリングやフィードバックは普段教室で行ってるのと同じような感じでできたというところですか?

岡田 そうですね。グループのところに行ってできましたし、時々教卓のパソコンでモニタリングもできたので、そういった意味ではいつも以上に観察ができたように思います。

同期型ハイブリッド授業に求められること

中澤 同期型ハイブリッド授業の運営などについて、改善したほうがよいと感じていることはありますか?

TAの育成

岡田 実は、対面授業になったことによってTAたちは結構苦労している面があります。2020年度に全面オンライン授業が始まったときに、それまでと全く勝手が違うからTAたちは苦労しているだろうなと思って、初年次ゼミ文科の授業TAたちにどんなサポートが必要かを尋ねるアンケートをしたところ、なんとオンラインになってものすごく楽になりましたという回答が多かったんです。何が楽になったかというと、機器のセッティングでした。初年次ゼミ文科はプレゼンテーションが重要な授業ですので、毎回機材ボックスの鍵を開けてパソコンをつないで、モニターに出力できるようにして・・・とやっていても、とくに1号館なんかでは機材トラブルがけっこう発生していて何度もパソコンを操作し直したり接続し直したり、それでもトラブルが解決しないで時間を食ったあげくスライドなしで発表といったようなこともあったようです。機器に詳しいTAの方が少ないですから、自分が悪いのか持ち込んだパソコンが悪いのか、それとも教室の機械が故障しているのかわからなくて、非常勤講師控室に教室機材点検の依頼も出せないでそのままになってしまったという話も聞きました。さらに、せっかく先生のパソコンをつないで動作確認していても、学生が自分のパソコンをつないでほしいと言ってきて、接続しようとしたら特別な端子が必要で非常勤講師控室に走った、なんていう報告もありました。機材トラブルによる授業の中断というのは履修生にとって大きな損失なので、TAたちはそれをとても恐れていたけれど、対面授業の教室ではそれなりの頻度で生じていたんですね。それがZoomでの画面共有になったらなくなった、ほんとに楽だと言ってきたんです。

中澤 そうなんですね。

岡田 今回対面授業になったことによって、それが復活しただけではなく、ハイブリッドになったらさらに別の機材も接続しなくちゃいけなくなるんですよね。そういった意味で、TAたちの苦労は計り知れない。授業内容と研究の専門性から先生たちはTAを選んでいるので、文系の院生だととくにそれと機器関連の知識・経験とが一致しないことが多くて、授業形態の多様化はTAたちには負担になります。それに備えて学術的な専門性だけでなく臨機応変な機器対応もできるようにTA全体の底上げをすることが適切なのか、あるいは複雑な機器対応の部分だけ切り取って別の人をあてがうのが適切なのか。もちろん大学・学部のほうでもそれを認識してくれていて、業者さんに加えて特定の機器専門のTAも学内に待機するようになってはいます。授業を受けながらその授業での機材関連のサポートをしてくれる学生に謝金を支払うクラスサポーターという制度もできていて、それも面白い人材の利用の仕方だと思いますが、そういう下支えをする人たちをどう育てていくかですよね。特定の人だけができるようになるのではなくて、できるだけ多くの学生たち、院生たちが何かあった時にすぐに機器の接続を確認して直したり、授業で使える便利なツールを機器が苦手な先生に提示できるようになるのがいいのだとはと思うんですが、それは一体どの組織や部署の役割なのか、どの範囲を対象にするのか、ですね。

それに関連して、授業の中でミーティングオウルを使って接続をしてると、他の授業で使ったっていう子もいましたが、初めて見る子もいて、声を出したらカメラが回るというのにものすごく興味を示して自分も試させてくれと言ってくる子もいました。ミーティングオウルだけでなく、授業でどんどんいろんなツールを取り上げて、学生たちに使う機会をあげるとか、その仕組みを知る機会をあげることが、長い目で見るとそういった人材を育成することにつながるのかなという気もしています。

グループへの介入の程度を同じにする

中澤 TAの仕事ですけれども、グループディスカッションのファシリテーションや介入は、ハイブリッドになったから変わったっていうところはなさそうでしょうか?

岡田 私の授業に関してはないですね。今学期実施した同期型ハイブリッド授業では、オンライン参加の学生が入ったグループはどの授業も1グループだけだったので。そこに近づいてTAや私がコメントをしたりすれば、カメラにも入りますしマイクも音を拾うので、オンラインの子にもちゃんと反映されました。TAのミニ講義も、私の講義パートと同じくいつもどおりに行いました。

中澤 なるほど。

岡田 KALSでのハイブリッド授業では、オンライン参加の学生がいるグループはウェイティングルームに置き、対面参加の学生だけのグループはスタジオに配置した、と先ほどお話しました。私の授業のTAはとても優秀かつベテランなので、私がとくに指示をしなくても、スタジオ教室の中のグループだけでなくウェイティングルームのグループにも同じ回数、足を運んで、オンラインで接続している学生にもきちんと観察と声かけをしてくれました。でも慣れていないTAだと、もしかしたらスタジオ教室の一角にとどまってしまってウェイティングルームの子たちに目を配るのを忘れてしまうといったこともあるかもしれません。ハイブリッドのところにはこんなふうに関与して欲しいと教員から指示する必要があったかもしれません。

抵抗なく同期型ハイブリッド授業を行えるように

中澤 ほかには何かありますか?

岡田 KALSは環境が良過ぎます(笑)。KALSの環境を使ってスムーズなハイブリッド授業が行えたとしたら、それをどうやって通常の教室に落とし込んでいけるかというところ、そこの橋渡しが重要なのではないかなと思います。私が担当している初年次ゼミナール文科では、自分で研究計画を立てて少しずつ研究を進めて、それを授業に持ち寄ってお互いにコメントし合うのがとても重要な部分です。コロナで欠席した場合、濃厚接触からの発症のような場合、下手すると2回、3回連続で教室に来れない学生も出てきます。その場合に、資料配布と質疑応答という対応で十分にフォローできるのかどうか、私は不安に思っています。なので、ハイブリッドの授業がもっと楽に行えるといいですね。もちろん、学部も色々とお世話をしてくださっていて、困ったら頼れるベースはかなりできているとは思うんですけども、誰かを頼らなくても、機械に慣れていない先生でもハイブリッド授業をもう少し抵抗なく導入できるように、アクティブラーニング部門の先生たち中心に、ハイブリッド導入のハードルを下げるような発信をしていただくといいんじゃないかと思います。同期型ハイブリッドで授業をするのに適していないタイプの授業、あるいはそう思い込まれているような分野の授業なんかもあると思うので、そういったところに同期型ハイブリッドを入れたときの効果的な授業方法や運営のフォローになるような情報を発信してもらえるとうれしいです。

授業の様子

中澤 オンラインで参加されてた学生からの感想や学習環境に対するフィードバックはありましたか。

岡田 今のところは特に問題や不満は出てきていないですね。KALSとは別の教室で同期型ハイブリッド授業を行ったときには、終了の合図をしてもオンライン参加の学生がいるグループはディスカッションが終わらなくて、議論が盛り上がってるからもうちょっと時間をくださいと言われてしまいました。対面でやるのと同じぐらいの熱量で参加できていたようでした。

中澤 ありがとうございます。今日、お話をお伺いして、岡田先生が学生のことを第一に考えられて授業を運営されていることがとてもよくわかりました。また、抵抗なく同期型ハイブリッド授業を行うための授業方法・運営に関する情報発信という宿題をいただきました。今後のアクティブラーニング部門の活動の中で取り組みたいと思います。

同期型ハイブリッド授業でのアクティブラーニング:初年次ゼミナール文科 岡田晃枝先生インタビュー(1)

2022年度は原則対面授業となりました。とは言え、COVID-19への感染や濃厚接触者になる等により、オンライン授業も併用されています。とりわけ、教室で行われる対面授業を同時にオンライン配信する、同期型ハイブリッド授業(ハイフレックス授業とも言われることがあります)を経験された先生も少なくないのではないでしょうか。同期型ハイブリッド授業では、どのようにアクティブラーニングを取り入れることができるでしょうか?

SセメスターにKALSで同期型ハイブリッド授業を実施されていた岡田晃枝先生(大学院総合文化研究科 准教授)に、授業の様子や授業運営のポイントをお伺いしました。

授業の概要

中澤(聞き手、アクティブラーニング部門教員) KALSをお使いいただいた授業は、初年次ゼミナール文科注1を2コマだったと思います。授業の概要を教えていただけますか?

岡田 ハイブリッド授業を実施したのは金曜1限の授業でしたね。「紛争と介入をめぐる諸問題」というタイトルの初年次ゼミナールです。国際政治の中で中核的に重要なイシューである武力紛争に注目するのですが、その中でも第三国や地域機構、国際機関など、紛争当事者ではなく他のアクターによる当該紛争への関わりのほうに主眼を置き、自分でテーマを設定して研究発表をする授業です。理想主義的な平和観を持っている大学の1年生は安易に「正しさ」を求めたり、十分な観察なしに「効果があった」「不十分だった」といった短絡的な結論に陥りがちです。そうならないよう、複数のアクターの視点から現象を見る努力をし、国際政治の現実を見据えつつ結論を導き出せるように、教員やTAからいろいろなヒントを与えつつ、学生個々に研究を進めてもらいます。外国語の資料を含め、広い範囲でたくさんの資料を各自で探し、それらをできるだけ客観的な視点で丁寧に確認して議論を立ててもらいます。

とはいっても、みんな何かしら自分が考える「正しさ」というものが心の中にあって、紛争の片方の当事者に同情的・共感的なスタンスを取ってしまいがちです。断片的な情報から予断を持ったり先入観にとらわれたりといったことも起きやすいテーマです。ですから、自分が考えた研究計画に客観的に突っ込みをしてもらうことがとても重要になってきます。もちろん全体発表で私やTAが突っ込みをすることもありますが、そうすると「ダメだから先生が指摘したんだ」と考えてその部分を簡単に削除して別のテーマに飛びつくといった傾向が往々にして見られます。立てた仮説を簡単に捨ててしまわず、批判的なコメントをされても何とか立証できないかと別の資料を探したり再度ロジックを点検したりと真剣に考える癖をつけるためには、まずは学生同士でのピアレビューが効果的だと思います。批判的かつ建設的なコメントをするつもりで他の人の発表を聞く練習をすれば、自分の研究も客観的に振り返ることにつながりますから、二重の意味で勉強になります。ですから私が担当する初年次ゼミナールではピアレビューを非常に重視しています。少しずつ確実に研究を進めてもらいたいですし、絶対にコメントをしなくてはいけない状況を作ることも大事なので、毎回、全体を3-4人のグループに分け、そのグループ内で全員が研究計画と進捗状況を発表し、批判的かつ建設的にコメントをし合います。

中澤 ピアレビューやグループディスカッションでの相互コメントが授業の核ということですね。

学習環境の設定の大切さ

中澤 同期型ハイブリッド授業を経験された感想はいかがでしょうか?

岡田 講義パートとグループディスカッションのパートの両方が滞りなく行えるようにするための環境を、KALSという空間を活かしてどう作るかが焦点でした。アクティブラーニング部門の先生たちに相談に乗っていただきながらレイアウトや接続手順を決め、そのおかげで授業をスムーズに実施できました。コロナに感染して心細い中、オンラインで参加する学生が聞き取れなくて置いてけぼりになってしまうような結果にならないためにも、KALSをよく知り、機器に精通し、さまざまな形態の授業例を見ているアクティブラーニングの「プロ」の先生に相談できるというのはとても心強かったです。

中澤 ありがとうございます。

岡田 KALSは、ウェイティングルームとスタジオがありますね注2。オンライン参加者のいるグループのテーブルを、ガラス戸で教室と隔てられたウェイティングルームに配置することで、他のグループの音声が入らない形でグループディスカッションをさせることができました。他のグループがいる教室との間が全面のガラスだったので、当該グループが孤立感を感じることもありませんでした。

マイクスピーカーや複数のパソコンがあったので、全体で私やTAが話す部分とグループディスカッションとで使うマイクスピーカーを手元で切替えることで、スムーズに場面転換ができたという点もありがたかったです。一度その環境で授業を行ったことで、各機器の特性、とくにミーティングオウル注3の「癖」を把握できたので、KALS以外の教室でのハイブリッド授業の際に応用が効きそちらもスムーズに行うことができました。

中澤 学習環境や機材の設定で、気を付けたり、意識されたことっていうのはありますか?

岡田 ミーティングオウルは学期開始前に試行的に使ってみた上で、実際に教室で使った先生たちからの情報もいくつか収集していました。そこで他のグループの音声を拾ってしまってうまく機能しないという話を聞いていたのです。それが先ほどお話した「他のグループの音声が入らない形」につながります。声の大きさを制御しにくい学生もいますから、その点にはとくに注意しました。

それからグループにオンライン参加の学生と対面参加の学生がいる場合に教室のモニターをどのようにセットするかという点も結構重要だと思います。KALSの場合はウェイティングルームに可動式の大きなモニターがありましたから、オンライン参加の学生が含まれるグループにはそのモニターを使わせることで、ソーシャルディスタンスを保ちつつ、無理のない姿勢で、活発に意見交換させることができました。

授業運営の様子やポイント

中澤 オンライン参加の学生とのコミュニケーションや、グループディスカッションでの介入など、授業運営で気を付けられたことや工夫はありますか?

オンライン参加の学生の不安を取り除く

岡田 先ほども言いましたが、オンライン参加の学生は、自分だけ教室に行けないということで強い不安を感じていると思うんですよね。例えば先生に余計な手間をかけてるんじゃないかとか、自分のせいで授業の手順が変わって他の学生に迷惑をかけているんじゃないかとか、そういうところを気にする学生たちは多いみたいです。ですからコロナに感染しても授業に参加できるくらいの健康状態であったり、濃厚接触のために健康に問題はないのに外出できないといった場合は遠慮なくオンラインの申請をして欲しいとITC-LMSのオンライン授業欄に書き、最初の授業時にもそう伝えていました。それから、教室だけでなくSlackも利用してできるだけ学生たちとコミュニケーションを取るようにして、オンライン参加の要求をするハードルをできるだけ下げるための工夫をしていました。コロナ感染や濃厚接触で授業を欠席するという通知をしてきた学生に、ハイブリッドで受けられますよって私から言ってあげたケースもありましたね。そうすると、もう熱が下がっていた子とか、濃厚接触で自分は元気だった子はとても喜んで、ぜひお願いしますと言ってくれました。ハイブリッドで参加させてほしいと学生が言ってこれるような関係構築の種を蒔いておくのがとても大事だと思いました。


注1
初年次ゼミナール文科についてはこちらをご覧ください。
http://komex-fye.c.u-tokyo.ac.jp/programmes

注2
KALSの構成はこちらをご覧ください。
https://dalt.c.u-tokyo.ac.jp/kals/facilities/

注3
ミーティングオウルは360度カメラとマイク、スピーカーの一体型機材。

(2)につづく。

第5回模擬国連ワークショップ(2022年9月19日)

カテゴリー: イベント

先日終了しました下記のワークショップにつき、当日の模様を簡略ながらご報告します。 日時:2020年9月9日(金)14時~17時 場所:ZOOM 参加者数:37名 登壇者: ■ 中村長史(東京大学大学院総合文化研究科 特任助教)セッション1・2 ■ 冨田早紀(The Global Fund to Fight AIDS, Tuberculosis and Malaria; 元国際移住機関 [IOM] )セッション2 ■ 八尾佳凛(東京大学教養学部生)セッション1 ■ 竹本陽(東京大学教養学部生)セッション1

1.目的

「学習者の学びを促すための模擬国連の授業への効果的導入について学ぶ」という目的のもと、より具体的には、下記の到達目標を定めました。 ①模擬国連の教育手法としての特徴を説明できるようになる (セッション1に相当) ②模擬国連の実施の手順を説明できるようになる (セッション1に相当) ③国際機関での実務の一例を説明できるようになる (セッション2に相当) ④国際機関で必要とされる知識・技能・態度を説明できるようになる (セッション2に相当)

2.概要

【1】趣旨説明(14:00~14:20 ) ワークショップの目的や構成を確認した後、各人の参加動機を改めて言語化していただきました。 【2】 セッション1「模擬国連導入事例から」(14:20~15:30) 模擬国連の授業への導入について、東京大学教養学部での試行錯誤を踏まえ、①教員が模擬国連の導入目的(中村の授業の場合は、国際関係論の知識を使いこなせるようになることや、利害や価値観が異なる人々と合意を形成できるようになること)を明確化すること、②導入の意義を受講者に伝えること、③目的に照らしてより適切な教育手法がある場合には、模擬国連にこだわらずにそちらを選ぶこと、などを、授業担当教員の中村と受講者からお伝えしました。参加者の方との質疑応答も含め、「どのような学生・生徒に育ってほしいのか」という教育理念がまずあるべきで、模擬国連はあくまでも一手段であることについて考えを深める機会となりました。

セッション1.  授業担当者・受講者の説明

【3】セッション2「国際機関での実務から学ぶ」(15:40~16:50) 冨田早紀氏より、複数の国際機関での実務経験に基づいて、国際機関で必要とされる知識・技能・態度についてご紹介いただきました。模擬国連で学ぶ知識・技能・態度が実社会でどのように役立ち得るかの一例を学ぼうという趣旨でしたが、セッション1との関係を意識した冨田氏のお話のおかげで、模擬国連の特徴を改めて確認する機会ともなりました。

セッション2. 冨田さんのお話

【4】まとめ(16:50~17:00) まとめでは、本日学んだことや疑問に思ったことと、それを踏まえて翌日以降に各人の現場に持ち帰るものとを確認しました。

3.参加者の感想

参加者の方々からは、以下のような感想が寄せられました。一部抜粋します。
  • 内容が分かりやすくとても興味深く感じました。具体的な説明や事例紹介もあり、多くの情報を教えて頂き、ありがとうございました。実際に参加した学生からの話もあったのが好かったです。
  • Policy Paperがとても参考になりました。一から主張をまとめるのは難しいのですが、このフォームに則って考えをまとめてみようと思います。
  • 模擬国連について疑問に思っていたことをわかりやすく説明してくださり、腑に落ちました。具体的には、所与の国益に制限されており、革新的な議論がしにくいということです。ロジックが成り立てば、担当国の政策や立場を少し変えてもよいという点がなるほどと思いました。また、Policy Paperのフォーマットについて、これまで見たことがあるものに比べて、論点の整理・政策を考える上で、非常にわかりやすかったです。

4.次回予告

今後も半年ごとを目安に定期的に開催していきたいと考えております。皆様のご参加をお待ちしております。

お問合せ先

教養教育高度化機構 アクティブラーニング部門(担当:中村長史) dalt[at]kals.c.u-tokyo.ac.jp