「模擬国連で学ぶ国際関係と合意形成Ⅰ」(2020年度Sセメスター)
投稿日:2020年7月31日
全学自由研究ゼミナール/高度教養特殊演習「模擬国連で学ぶ国際関係と合意形成Ⅰ」(2020年度Sセメスター)の授業の様子を紹介します。2019年度Aセメスターに続いて2期目の開講となりましたが、受講者は18名(1年生7名、2年生4名、3年生3名、4年生4名)でした。
担当教員:中村長史(総合文化研究科・教養学部附属教養教育高度化機構)
担当TA:九島佳織(総合文化研究科国際社会科学専攻国際関係論コース)
1.授業概要
国際社会で生じる問題は、自然現象ではなく社会現象である以上、一人一人の力によっ てわずかながらでも良くすることもできるし、さらに悪くしてしまうこともあります。本学の学生には、この点を意識し、自分の頭で国際問題の解決策を考えられるようになってほしいと考えています。
そこで、この授業では、「模擬国連(Model United Nations)」というアクティブラーニングの⼿法を⽤いて、国際問題の解決法を考えました。多様な利害・価値観に配慮することの重要性を理解するには体感してみることが早道ですが、模擬国連の会議では、⼀⼈⼀⼈が⽶国政府代表や中国政府代表などの担当国になりきって国際問題について話し合います。⽴場を固定されている点ではディベートと同様です。しかし、相⼿を論破することで勝利を⽬指すディベートと異なり、模擬国連会議では合意形成が⽬的であるため相⼿の利害・価値観を尊重したうえでの妥協が重要になります。この点を重視し、授業内では対⽴の激しい議題・担当国を設定して、 ロールプレイ・シミュレーションに取り組みました。
2.授業の目的・到達目標
目的
国際社会本講義で学んだ概念と事例を使いこなして、現在の世界における問題の構図や原因、解決法を自分の頭で考えられるようになる。
到達目標
①国際問題の構造や原因を説明できる【レポート1,2で評価】
②国際問題をめぐる多様な⽴場(利害・価値観)を説明できる【レポート1,2で評価】③国際問題の解決における妥協の重要性を説明できる【レポート1,2で評価】
④国連の資料を⾃ら調べて国際問題の分析に⽤いることができる【レポート1,2で評価】
⑤国際問題の解決策について、選択肢を複数挙げて⽐較衡量したうえで、妥当と考えられるものを説得的に示すことができる【レポート1,2で評価】
3.授業の流れ
ガイダンスー模擬国連から学べること(第1-3回)
模擬国連によって一般に学べること・学べないこと、そして、本授業の模擬国連から学べること・学べないことを確認しました。そして、学べないことについて補完する方法を検討するとともに、学べることを意識して一学期間過ごすことの重要性を再確認しました。なお、今セメスターは、COVID19の影響で急遽オンライン授業となったため、ガイダンスの回数を2回増やし、オンラインで模擬国連の会議を行なうための練習会を行ないました。これにより、昨年度のようにゲスト講師から会議への講評をいただく時間をつくれなくなったため、授業外で任意参加の機会を設けることとしました。
模擬国連会議:イラク戦争(第4回~第8回)
2003年3月のイラク戦争開戦直前の国連安全保障理事会のシミュレーションを行ないました。第4回で議題概説を行ない、担当国を決定した後、第5回から第7回まで会議を行ないました。実際の国連安全保障理事会の構成国のうち、中国(査察継続派)、フランス(査察継続派)、ロシア(査察継続派)、英国(即時開戦派)、米国(即時開戦派)の5つの常任理事国に「中間派」のチリ・パキスタンを加えた7ヶ国を設定し、1ヶ国を2・3人で担当しました。現実の会議と異なり決議案が投票にかけられましたが、英米案・仏露案双方に対して対立する常任理事国が拒否権を行使することとなり、廃案となりました。
第8回では、まず、このような会議の内容について、担当国の立場から振り返り、自国の利益をどの程度反映できたか、より適切な政策立案・議論・交渉等はなかったかを検討しました。そのうえで、個人の立場から会議を振り返り、国際社会全体の利益のために、どのような方法があり得る(た)のかを議論しました。2つのふりかえりを踏まえて、受講者は授業外でレポート2に取り組みました。
模擬国連会議:北朝鮮の核開発(第9回~第12回)
2017年9月の北朝鮮による6度目の核実験後の国連安全保障理事会のシミュレーションを行ないました。第9回で議題概説を行ない、担当国を決定した後、第10回から第11回まで会議を行ないました。実際の国連安全保障理事会の構成国のうち、中国(圧力強化消極派)、フランス(圧力強化積極派)、ロシア(消極派)、英国(積極派)、米国(積極派)の5つの常任理事国に日本(積極派)、カザフスタン(消極派)、ウクライナ(積極派)を加えた8ヶ国を設定し、1ヶ国を2・3人で担当しました。現実の会議と同様、経済制裁の強化を盛り込んだ決議案が採択される結果となりました。
第12回では、イラク戦争の際と同様、まず、このような会議の内容について、担当国の立場から振り返り、自国の利益をどの程度反映できたか、より適切な政策立案・議論・交渉等はなかったかを検討しました。そのうえで、個人の立場から会議を振り返り、国際社会全体の利益のために、どのような方法があり得る(た)のかを議論しました。2つのふりかえりを踏まえて、受講者は授業外でレポート1に取り組みました。
まとめー模擬国連から学んだこと(第13回)
各自が模擬国連から学んだことについてふりかえりました。また、来セメスター以降の模擬国連の授業をよりよくしていくための方法を検討しました。
授業スケジュール
4.受講者の感想
- 会議をする前提として議題に関する知識が必要で、また会議自体が知識の活用の場となるため、座学よりも知識が身につきやすいと思いました。また、非公式会議での発言やコーカスの交渉など知識の活用の際にはその場その場で頭を使うため、その練習にもなったように思います。さらに、模擬国連で実践して得た交渉のノウハウが、実際に合意形成が必要な話し合いをする際に応用できるのではないかと思いました。
- 実際に利害が存在する当事者の立場で問題と向き合うことで、「正論が最適であるとは限らないこと」「パフォーマンスとしての外交(会議行動が他国の目にどのように映るか)」について学ぶことができた。
- 模擬国連を通して、今まで高校で世界史を習ってはいたものの、国際関係に関してやはり日本中心の見方をしていたことを実感し、また複数の視点に立って国際関係を考えられるようになったと感じました。合意形成を目指す中で自然と自身が担当した国だけではなく、他国の目線でも問題を見ることができるようになったことには大変驚きました。
- 今回扱われたテーマに関わる、国際政治や国際関係論における概念や理論の一部(特に外交・安全保障について、安心供与など)や、国連安保理の仕組み・役割・限界などについて学べました。会議をするにあたり、議題に関わる国連憲章や安保理決議、安保理議事録といった国連の文書の一部を初めて見て、それがどういうものなのかを知ることができて良かったです。
- 以前まで私は国連をいわば「世界の警察」のように捉えており、どんな国際問題も国連に持ち込めば何かしら改善はするのであろう、なぜ国連はこんなに多くの国際問題を未だ解決できないのだろうか、などと思っていた。しかし、今回実際にやってみることで多国間での合意形成の難しさや国連の万能でないところなどを知ることができ、国連任せの姿勢でいてはよくないのだとよくわかった。
- 模擬国連を通して、今まで高校で世界史を習ってはいたものの、国際関係に関してやはり日本中心の見方をしていたことを実感し、また複数の視点に立って国際関係を考えられるようになったと感じました。合意形成を目指す中で自然と自身が担当した国だけではなく、他国の目線でも問題を見ることができるようになったことには大変驚きました。
- 初めは「一つのセメスターで二つの事象についてしか学べないのか」と非常に限定的な学習であるように感じた。しかし、一連の調査や会合を通して各国がどのようなロジックで行動をするのか、そして自国の意図を示すためにどのような言葉や手段を選ぶのか、といった一般的な理解にも繋がった。
- 大使として発言する際には、細かいワードチョイスにまで注意する必要があることを学びました。
- オフラインであった方が、相手とface to faceで交渉をする際に隠れた意図を察したりすることがより容易だったのではないかと思う。一方で顔を合わせていないことで他の学生が他人であるような感じが強かったが、そのことで先輩後輩関係などを抜きに対等な会議ができたのはメリットと言えると感じた。
お問合せ先
教養教育高度化機構 アクティブラーニング部門(担当:中村長史)
kals[at]
kals.c.u-tokyo.ac.jp
2020年度Sセメスターは駒場キャンパス全体でオンライン授業となり、KALSのTAも通常の授業支援ではなく、オンラインでの授業支援となりました。Sセメスター終了後、アクティブラーニング部門のスタッフとTAでオンライン授業支援業務を振り返り、
メリット/デメリット、オンライン授業の可能性や限界等について検討しました。
今回は第1弾として、TAから挙げられたオンライン授業支援のメリットについて掲載します。
メリット1:どこのキャンパスの授業でも支援できる
TAは、駒場だけでなく本郷や柏を本拠地として研究をしているケースがあります。自分の専門領域に近い授業でも地理的に遠い場所で開講される授業の支援であれば、TAを諦めざるを得ない状況があります。しかし、オンラインの場合、どこのキャンパスの授業でも、つまり、どこから配信される授業でも支援が可能です。2020年度のSセメスターも、本郷を拠点とする院生がKALS TAとして活躍してくれました。研究時間の合間を縫ってTA業務に従事する院生にとって、移動時間がないことは、最大のメリットの一つでもあることがわかりました。
メリット2:グループワークの巡回がやりやすい
アクティブラーニングの手法を導入する授業は、グループワークを採用することが多くあります。KALS TAはアクティブラーニングの手法を用いた授業の支援を行うため、業務の一つにグループワークの巡回がある場合が多いです。対面の場合、TAがグループワークに入ることで話が中断するケースがあるようですが、オンラインの場合、TAの出入りがグループワークを邪魔しないことがよいという感想が聞かれました。TAによっては、対面のグループワーク中、次のグループに動くタイミングに迷うこともあるようですが、オンラインの場合は出やすいといったこともあるようです。威圧感なくグループワークに入り、議論が活発な場合はそのまま退出でき、議論が硬直している際はアドバイスができる等、グループワークへの入りやすさ、出やすさに加えて、多くのグループを巡回できることも挙げられ、ポジティブな声が多く聞かれました。
メリット3:受講生の様子をその場で記録できる
TAはグループを巡回しながら、ワークの進捗、グループの様子、個々のメンバーの発言や関与の程度などを記録することがあります。対面の場合はその場でメモを取り辛いのですが、オンラインの場合はグループワークの様子を画面で確認しながらメモを取る、もしくはPCにメモとして残すことができるため、「メモを取られている」と学生に感じさせることなくTAは記録ができる、という声も聞かれました。
以上、オンライン授業支援におけるメリットについて3点挙げました。
KALS TAの5名全員がオンライン授業支援は初めてでしたが、滞りなくSセメスターの授業支援が終了し、ほっとしています。上記のメリット、特にメリット2やメリット3はTAならではの気づきであり、対面でのTA業務の苦労も垣間見れ、授業担当者としても勉強になりました。次回以降は、オンライン授業支援のデメリットとして挙げられた点について、ご紹介します。
お問合せ先
教養教育高度化機構 アクティブラーニング部門
小原優貴、伊勢坊綾、中村長史
kals[at]
kals.c.u-tokyo.ac.jp
対策
5. 集中して聴ける場づくり
(1) 発表へのコメントを求める
発表に対してコメントすることを学生に求めることで、学生にとっては集中して聴く必要が生まれます。もちろん、発表者にとっても、教員やTA以外からも発表へのフィードバックが得られるのは、有意義な面があるでしょう。コメントシートを用意すれば、発表者以外の学生全員に、そういった場を提供することが可能になります。
(2)「自分ごと」にしてもらう
(1)のみでは、やや他律的な取り組みとなりますが、発表へのコメントを求める際には、それが自分自身の学びにとっても役立つことを理解してもらえれば、より自律的な取り組みとなります。例えば、小論文の執筆構想についての発表の際、テーマは違っても、先行研究批判の仕方や、問いの意義の示し方などについては、発表から学び自身の小論文に活かせることを伝えれば、学生にとっては他の学生の発表を「自分ごと」として捉えることができます。発表を聴くモチベーションが高まれば、自ずと集中するようになり、高い学習効果が期待できます。
課題5. オンライン授業での学生の発表、他の学生は集中して聴けているだろうか…
オンライン授業においても、学生の発表の機会を設けていらっしゃる先生が多いかと思われます。その際、発表者以外の学生が集中して聴けているかが気にかかります。対面授業においても起こる問題ですが、課題3で記したようにオンラインの場合は学生の反応がわかりづらいので、より問題となり得ます。教員として、一体どういったことができるでしょうか。
⇒
対策5をご覧ください。