ピアレビュー

所要時間

15-30分

活動単位

個人 → ペアもしくはグループ

大人数への適合度

概要

学生が成果物や発表について互い評価し合う活動をピアレビューといいます。 以下では、レポートに関するピアレビューを例に流れを説明します。
手法の流れ かける時間
教員はレポートへのレビューの観点を学生に示します(文法、論点の適切さ、文章の論理性など) 2〜3分
学生がレポートを執筆します -(課題として出すことも可)
ペアを作り、お互いのレポートを交換します 2分
お互いのレポートを読みます(メモやコメントを記入します) 5分
交互にレポートについてフィードバックします 10分(5分ずつ)
授業中の活動や次週までの課題として自分のレポートを改善します

特徴

・学生が他者を評価することで、教員の負担が軽減するとともに、学生に評価者の視点が身につき成果物や発表の質が向上します ・他者との意見交換を通じて、自分にはない視点に気がつく事で、成果物や発表の質の向上が期待されます ・レポートなどの成果物が対象の場合は、周囲の学生とそれを交換できれば良いため、大人数の授業でも活用できます

よくある問題と対応策

よくある問題 対応策
レビューをする学生のコメントが短い・稚拙 ・レビューの観点について疑問点がないか質問をさせる ・レビューの練習の機会を設ける ・レビューコメントの良い例と悪い例をサンプルとして事前に示す ・レビューコメントに教員がコメントをする

注意点

・初対面の学生でもお互いに意見が言いやすいように、あらかじめ協力的な雰囲気を作っておく

実践例

ピアレビューの実践

詳細な解説

ピアレビューの効果的な導入方法   (小原優貴、吉田塁)

ミニッツペーパー

所要時間

5-10分

活動単位

個人

大人数への適合度

概要

授業で配布し、学生に興味・関心や疑問点、理解度などを数分で記入してもらい回収する紙のことをミニッツペーパーと呼びます。 ミニッツペーパーで尋ねられる質問としては、 ・今日の授業で最もよくわからなかったところはどこですか? ・今日学んだ、最も重要な事は何ですか? ・今日の授業を◯ 字で要約してください ・〇〇(キーワード)について自分の言葉で説明してください などがあり、記入させる内容を変えることで様々な活動を行えます。
手法の流れ かける時間
教員がミニッツペーパーを配布する 2-3分(授業開始時に配布も可)
ミニッツペーパーを記入する 5-10分
教員がミニッツペーパーを回収する 2-3分(退出時に提出させるのも可)
(次回)教員がミニッツペーパーの内容を共有する*1 5分
*1 ミニッツペーパーの共有はプリントに記載して配布することも可能

特徴

・授業に対する学生の理解度・疑問点を確認することができる ・コメントを付けることで双方向のコミュニケーションを取ることができる ・出席表の代わりに使用するなど簡単に導入できる

よくある問題と対応策

よくある問題 対応策
書かれるコメントが短い・稚拙 ・教員がきちんと読んでいることを示すなど学生のモチベーションを上げる ・小レポートのように成績に反映させる ・ペアで話し合わせてその内容を記入させる
コメントを返したいが時間がない ・全員でなくランダムに選んだ/良いコメントをした受講生にコメントする ・何種類かの判子(「よく出来ました」など)を用意して押す

注意点

・学生が回答する課題の内容が多すぎると記入時間がかかる (記入させる内容を絞る) ・フィードバックをする/内容を成績に反映するなどしないと受講生の記入モチベーションが下がる ・大人数講義の場合、TAなどを活用しないと集計・コメントが大変 ・ミニッツペーパーの共有を匿名にしない場合は学生と相談する必要がある

実践例

ミニッツペーパー の実践   (福山佑樹、吉田塁)

『科学の技法: 東京大学「初年次ゼミナール理科」テキスト』

東京大学出版会  全240ページ  本体2,500円 「初年次ゼミナール理科」の内容が書籍になりました。学生・教員・一般向け。理系アクティブラーニングに役立つ基礎編、各教員の工夫や授業構成・学生の成果物 や雰囲気を感じ取ることのできる実践編、『知の技法』のようなエッセイ形式で研究の世界を伝える発展編、の3部構成です。 図版も豊富に掲載。実践編はカラー印刷となっており、学生の活き活きとした様子を実感していただけます。

はじめに

基礎編 サイエンティフィック・スキルを身につける

  1. 1 アカデミックな知の現場へ――大学での学びとは
  2. 2 研究のプロセス
  3. 3 研究倫理
  4. 4 学術論文の種類と構成
  5. 5 文献検索
  6. 6 グループワーク
  7. 7 プレゼンテーション
  8. 8 レポート
  9. 9 文献の引用
  10. 10 ピアレビュー

実践編 実録!初年次ゼミナール理科

授業のパターン
問題発見・解決型
1 社会問題解決策のデザイン――社会技術とイノベーション(小松崎俊作) 2 私たちの身近にあるタンパク質を科学する(高橋伸一郎ほか) 3 老化のメカニズムに迫る――アンチエイジングは可能か? (江頭正人)
ものづくり
4 建築の可能性(川添善行) 5 体験的ものづくり学:3Dプリンタによるコマづくり(三村秀和ほか) 6 レアメタル製品化プロジェクト(岡部 徹) 7 数学・物理をプログラミングで考える(田浦健次朗) 8 機械学習入門(杉山 将・佐藤一誠) 9 知能ロボット入門(新山龍馬・高畑智之)
データ解析型
10 スポーツや音楽演奏のスキルと熟達化について考える(工藤和俊) 11 地震・火山の分布と地形・地質情報から観る日本列島の姿(市原美恵ほか) 12 身近な物理でサイエンス(松本 悠・田上 遼)
論文読解・演習型
13 ミクロの生命現象を可視化する(永田宏次・木下滋晴) 14 薬学における生物学の役割と貢献(八代田英樹ほか)
フィールドワーク型
「初年次ゼミナール理科」授業一覧

発展編 研究の世界へ

1 性差は科学できるか(坂口菊恵) 2 発生学と再生医学(栗原裕基) 3 身近なところに隠れている大発見:クワガタムシの隠蔽種と菌囊(久保田耕平) 4 寄生虫とのつきあい方(後藤康之) 5 ヒトが光合成できるようになるには(増田 建) 6 始原の微生物代謝を垣間見る(石井正治) 7 酒になれなかった水のはなし(北條博彦) 8 時空のさざ波,重力波をとらえる(大橋正健) 9 物理学を例にとって考える「研究する意味」(長谷川修司)

あとがき

ピアレビューの効果的な導入方法

ここでは、学生同士が相互に評価しあうピアレビューの効果的な導入方法について紹介します。課題の成果物に対する評価は教員が行うものだと考えられていますが、学生同士で行うこともできます。また、学生が相互に評価するピアレビューは、教員および学生の両者にとってメリットのある方法です。教員にとっては、学生が行った評価を参考にしながら最終的な評価ができるため教員の負担は減ることが期待されます。また、学生にとっては評価をうけるだけではなく、他者の成果物に対する評価をすることで、自身の成果物の質が向上することも示されています(Lundstrom & Baker 2009)。 ここで、学生同士に評価させる場合、評価の妥当性や信頼性に問題が生じることを懸念される方もいらっしゃるかと思いますが、適切な方法を用いることで、その点を補うことができます。以下、ピアレビューの手順および効果的な実施方法をご紹介します。

ピアレビューの手順

ここでは課題をレポートだとしてピアレビューの流れを説明します。まず、学生はレポートを作成します。次に、そのレポートを学生同士で交換し合い、お互いのレポートを評価します。そして、その評価を元に課題を改善するという流れです。ピアレビューは、レポートのみならず、プレゼンテーションやポスターなど幅広い課題の成果物に応用できます。より具体的な手順に関しては、ピアレビューのページ本部門が提供している「+15 minutes」の冊子をご参照ください。

効果的な実施方法

授業にピアレビューを効果的に導入するためには、いくつかおさえるべきポイントがあります(Topping 1998; Dochy, et.al. 1999)が、下記の2点が特に重要になります。 ・ピアレビューの評価観点を示す ・ピアレビューの練習の機会を設ける 以下、それらについて詳しく説明します。

ピアレビューの評価観点を示す

1点目はピアレビューの評価観点を明確に示すことです。そうすることで、学生は評価のポイントを学び、課題において重視するべき点を明確に理解することができます。また、教員と学生の評価観点が共有されることから、学生による評価であっても、その妥当性や信頼性は高まります。実際、評価観点が明確に提示されることで、課題の成果物に対する学生による評価と教員による評価の相関が高くなることが示されています(Flachikov & Goldfinch 2000)。このように、ピアレビューにおいて課題における評価ポイントを明示することは非常に有用です。 ここでは、評価観点を示す効果的な方法として、ルーブリックを紹介します。ルーブリックとは、課題の成果物の評価観点と評価基準が明示されたシートです。評価基準とは、どのような内容であれば低評価、高評価なのかが記述されているものです。例えば、レポートのルーブリックで、「構成」という評価観点があった時に、単なるチェックシートであれば、その観点に対して1?5点の範囲でそれぞれの学生が点数をつけます。一方、ルーブリックでは「それぞれの文章の関係性が明確で一貫性がある」ものが5点、「それぞれの文章の関係性が不明確で一貫性がない」ものが1点というように、配点の根拠を明示します。評価観点のみを提示することも有用ですが、さらに評価基準も提示するルーブリックは学生の学びをさらに促すことが期待されます。是非ルーブリックをご活用ください。ルーブリックの作り方に関しては書籍「大学教員のためのルーブリック評価入門」(佐藤ら 2014)が参考になります。

ピアレビューの練習の機会を設ける

2点目は、非常に重要ですが見落とされやすい、ピアレビューの練習についてです。実は、ピアレビューを導入したとしても、相互のフィードバックが実際の成果物の改善につがなっていないことが指摘されています(Min 2006)。その理由としては、学生が行うフィードバックの内容が具体的でなく、改善につながりにくいためだと考えられています。実際、台湾人の学生が英語でエッセイを書く際に、ピアレビューの練習をしなかった場合はピアレビューをしても全体の約10%しか成果物の改善が見受けられなかったのに対して、練習した場合では、全体の約70%に成果物の改善がみられたことが示されています(Min 2006)。 具体的なピアレビューの練習においては、以下の項目がポイントになります。 ・教員がピアレビューの実演をする ・評価観点を元に学生が成果物を評価する ・学生の評価に教員がフィードバックする 参考のため、実際に Min らがエッセイのピアレビューの練習で用いていた方法(Min 2006)を紹介します。教員による実演に関しては、4つのステップで行われました。
  1. 文章から著者の意図を理解する
  2. 文章の問題点を見つける
  3. どの点が問題かを明確に指摘する
  4. 具体的な改善案を提示する
上記のステップについて実演をみた後、学生はこれらのステップを意識してピアレビューを行い、その評価に対して教員がフィードバックするという流れでした。このように、作成者の意図を理解して問題点および具体的な改善策を提示する練習をしてもらうことで、学生が具体的にピアレビューをどのように行えばよいのかを理解することができます。そして、それが課題の成果物の改善につながることがわかっています。

まとめ

ここでは、ピアレビューの効果的な実施方法について紹介しました。具体的には、以下の項目が実施において重要です。 ・ピアレビューの評価観点を示す ・ピアレビューの練習の機会を設ける 評価観点を示す時は、評価基準も記載されているルーブリックが活用できます。また、ピアレビューの練習としては、まず教員が実演し、学生に評価してもらい、その評価に対して教員がフィードバックすることが肝要です。 このような効果的なピアレビューを授業に取り入れて、学生の学びを深めていただければ幸いです。より具体的な方法やポイントについて質問などございましたら、お気軽にアクティブラーニング部門にご相談いただければ幸いです。 (吉田塁)

参考文献

Dochy, F. J. R. C., Segers, M., & Sluijsmans, D. (1999). The use of self-, peer and co-assessment in higher education: A review. Studies in Higher education, 24(3), 331-350. Falchikov, N., & Goldfinch, J. (2000). Student peer assessment in higher education: A meta-analysis comparing peer and teacher marks. Review of educational research, 70(3), 287-322. Lundstrom, K., & Baker, W. (2009). To give is better than to receive: The benefits of peer review to the reviewer’s own writing. Journal of Second Language Writing, 18(1), 30-43. Topping, K. (1998). Peer assessment between students in colleges and universities. Review of educational Research, 68(3), 249-276. Min, H. T. (2006). The effects of trained peer review on EFL students’ revision types and writing quality. Journal of Second Language Writing, 15(2), 118-141. 佐藤浩章監訳ほか(2014). 大学教員のためのルーブリック評価入門. 玉川大学出版部  

学生によるレポートの相互添削

学生によるレポートの相互添削(ピアレビューの実践)

実践者

ジョンマニナン先生(グローバルコミュニケーション研究センター)

科目名

ALESS (Active Learning of English for Science Students)

人数

15名程度

授業に関する基本情報

ALESS(Active Learning of English for Science Students)プログラムは、学術論文の作成法の基礎を学ぶ理科生(理科I、II、III 類)1年生を対象としたネイティヴ・スピーカーによる少人数制の必修科目です(2008 年4 月開始)。

受講生は、自らが考案・実施する科学実験をテーマに、IMRaD(Introduction(序章)、Methods(方法)、Results(結果)、Discussion(考察))という国際的な標準形式にそって論文を執筆します。

実践している手法の具体的な内容

ピア・レビューは、ALESS を担当するようになってから、2 年半ほど実施しています。論文の各パート(序章、方法、結果、考察と要旨)のドラフトを執筆した後、そしてすべてのパートをまとめた論文が完成した後に実施しています。

たとえば、序章のパートでは、教員は、まず最初に序章で提示すべき事項や気をつけるべき点などを説明し(1)、次の週までに学んだことをふまえて序章のドラフトを準備してくるように学生に指示します(2)。

次週では、まず序章のドラフトを評価するためのいくつかの観点を示したチェックリストを学生に提示します。このチェックリストは、前の週に学んだ内容をもとにしているため、説明には多くの時間を必要としません(3)。

次に、ピア・レビューを行うペアを作らせます(4)。学生はペアとなった相手のドラフトについて、チェックリストを用いてレビューします。不足情報などがあれば、ドラフトやチェックリストの自由記述欄にその内容を記入します。この間、教員は巡回して、学生のドラフトとレビューの内容をチェックし、漏れなどがあれば補足します(5)。

最後に、ペアとなった学生同士でレビュー結果を交互に口頭で伝えます(6)。

この一連の流れを、方法、結果、考察についても繰り返し、最後にすべてのパートをまとめた論文(フルペーパー)を執筆します(7)。学生はこの論文についてもピアレビュー(匿名)をおこない、このピアレビュー自体が、成績評価の対象になります(評価の10% を占める)。

学生はピアレビューを受けて修正した各パートのドラフトと、フルペーパーを教員に提出します。教員はこれらに加え、フルペーパーに対するピアレビューの内容を授業時間外でチェックします。

授業の流れ

[table]

[tr][th]番号[/th] [th] 内容[/th] [th]所要時間[/th][/tr]

[tr][td]1[/td] [td](1回目の授業)序章で提示すべき事項や気をつけるべき点などを説明する[/td] [td]-[/td][/tr]

[tr][td]2[/td] [td](2回目の授業まで)学生が学んだことをふまえて序章のドラフトを作成する[/td] [td]-[/td][/tr]

[tr][td]3[/td] [td](2回目の授業)チェックリストについて説明する[/td] [td]5分[/td][/tr]

[tr][td]4[/td] [td](2回目の授業)ペアを作る[/td] [td]3分[/td][/tr]

[tr][td]5[/td] [td](2回目の授業)チェックリストを用いてドラフトをピアレビューする。教員は机間巡視をする。[/td] [td]30分[/td][/tr]

[tr][td]6[/td] [td](2回目の授業)レビュー結果を交互に伝える[/td] [td]15分[/td][/tr]

[tr][td]7[/td] [td](3回目以降の授業)方法、結果、考察の執筆にも同様の方法を用いる[/td] [td]-[/td][/tr]

[/table]

その手法を実践して良かったこと

レビューを受ける学生は、自分が気づかない点を指摘してもらえるというメリットがあり、レビューする学生は、レビューを通じて評価者の視点を身につけ、自分の間違いにも気づけるようになるというメリットがあります。

ピアレビューを受ける前と受けた後とでは、論文の質が明らかに異なり、内容が充実し、より良くなっているのがわかりました。

その手法を実践して感じたデメリットや難しさ

ピアレビューが適切に行われているかを確認するためには、多くの時間が必要となり、教員の負担になります。一方、各パートのドラフトのレビューを学生が行うことによって、初歩的なミスを教員が指摘しなくてよくなり、教員の負担が軽減された部分もあります。

英語力が十分でない学生とペアになった場合、学生がピアレビューのコメントに満足しないこともあります。学生の満足度を下げないためにも、ピアレビューの相手を変えたり、教員からフィードバックしたりしています。

これから実践する先生へのアドバイス

批判に慣れていない学生が安心してピア・レビューに取り組めるように、協力的な雰囲気をつくったり、批判は、論文の質を高めるための批判であることをあらかじめ学生に伝えておいたりすることは大切です。

ピア・レビューの結果を自由記述形式でコメントできると、批判的思考が刺激され、学生はより主体的にピア・レビューに取り組むようになります(評価項目を満たしているかどうかを Yes/No の選択形式で回答させるチェックリストだけでは十分な刺激になりません)。これによって、評価者としての視点が身につき、結果的に、レポートの質も高まります。

(小原優貴、吉田塁)

学生との対話を実現(ミニッツペーパーの実践)

実践者

佐々田槙子先生(数理科学研究科)

科目名

数学

人数

100名

授業に関する基本情報

数学I は、学部1・2 年の文系生が受講する数学の授業です。社会科学に関連する題材を織り交ぜ、数学的な概念を把握することに重点をおいています。 特に私の授業では、私が講義するだけではなく、数学的な概念の理解につながるような課題に学生が取り組む機会を設けています。そうすることで、内容の理解に加えて、学生の集中力を維持する効果をねらっています。

実践している手法の具体的な内容

ミニッツペーパーには、以下の3 項目と授業内で取り組む課題の回答欄を設けています。 ・今日新しく学んだことで特に印象に残った点を挙げてください ・今日の授業でわからなかったところや、疑問点があれば書いてください ・今日の授業の感想を書いてください 授業では、最初に小テストを実施します(1)。 次に、前回のミニッツペーパーの回答をもとに、理解が不足しているところの補足をしたり、印象的なコメントを共有したりしています(2)。その際、私がピックアップした回答と私のコメントが書かれた紙も渡しています。 そして、講義の間に課題を設けます(3~5)。 最後にミニッツペーパーを書いてもらいます(6)。 表 授業の流れ
番号 内容 所要時間
1 小テストを実施する 10分
2 前回のミニッツペーパーの内容を元に前回の補足をする 10分
3 数学のトピックに関して講義する 40分
4 内容を理解するための課題をいれる 10分
5 数学のトピックに関して講義する 30分
6 ミニッツペーパーを書いてもらう 5分

その手法を実践して良かったこと

ミニッツペーパーを通して、学生が考えていることを把握できるのが良かったです。個別の理解度や疑問に加えて、全体としてどのぐらい理解してくれているのかも把握できるところが良かったです。普通は、直接質問に来る学生が持っている疑問が、学生の多くが持っているものなのか、その人特有のものなのかがわかりませんが、ミニッツペーパーを用いていると、その疑問をもっている学生の割合がわかるので、学生全体の理解度を把握することができます。 多くの学生がつまずいているところを把握できると、次回の授業で補足できますし、面白かったというコメントや数学の本質的なところを理解してくれたことがわかるコメントを見ると、授業準備のモチベーションがあがります。 授業中に手をあげて質問するのは勇気がない、という学生も、ミニッツペーパーには疑問を率直に書いてくれるため、コミュニケーションツールとして有効だと思いました。 また、学生のコメントを紙にまとめて共有しているのですが、そうすることで学生同士の疑似ディスカッションが実現できているように感じます。

その手法を実践して感じたデメリットや難しさ

学生のコメントを紙にまとめる時間はデメリットになりえます。私の場合、ミニッツペーパーをざっと読んで、ピックアップしたいコメントに印やコメントをつけて、秘書の方に電子ファイルでまとめてもらっています。そのため、コメントにかける実質的な時間は1 時間ほどで、負担はあまり大きくありません。実際、自分でまとめるとなると、ここまで対応できないかもしれません。 また、「全然わからない」といった漠然としたコメントがある場合、何がわからないのかがわからないため、反応に困ってしまう時があります。そこで、「テイラー展開の~~という部分がわからない」など、学生にも具体的な指摘をしてもらえるように促せばよかったかもしれません。

これから実践する先生へのアドバイス

難しかったところでもお伝えしましたが、「全然わからない」など漠然とした疑問だと、対応が難しくなるため、具体的な指摘をしてもらうように学生にお願いするのが良いかもしれません。 また、いかにミニッツペーパーに対してリアクションするかがポイントになると思います。私は、授業冒頭に行う前回授業の補足やコメントをまとめた紙を返すことによって、リアクションをしていました。教員からのリアクションがないと、ミニッツペーパーを書いても仕方ない、と書いてくれなくなる可能性、さらに無視されたと感じて、かえって不信感につながる可能性があるように思います。 全体としては、導入してよかったと思っています。学生が考えていることもわかりますし、授業準備のモチベーションも上がりました。また、大人数を相手にしていると学生の考えを聞く機会が少ないですが、ミニッツペーパーを用いることで、教員と学生、あるいは学生同士のコミュニケーションを実現できました。 (吉田塁)

大人数でも使える Think Pair Share

実践者

吉田塁(アクティブラーニング部門)

科目名

初年次ゼミナール理科 共通授業

人数

100~200名

授業に関する基本情報

初年次ゼミナール理科とは、グループによる協同学習を伴う、自然科学の基礎的な研究技法の習得および自然科学の学問への導入を目的に、1 年の理科生全員必修で1クラス20 名程度の少人数制で実施されているアクティブラーニング型授業です。 少人数のクラスに分かれる前に、全員に知っておいてもらいたい事項、例えば、研究とは何か、研究の具体的な進め方、学術情報の検索方法、研究倫理などを学んでもらうための共通授業が実施されます。私は、共通授業の設計および実施に深く関わらせていただき、Think Pair Share の方法を取り入れることを提案し実施しました。

実践している手法の具体的な内容

共通授業では、まず学生たちは大学における学び、研究とは何か、研究のプロセスに関する説明を聞きます。 その後、研究のプロセスを理解することを目的として、研究計画の体験をします。 具体的には、計画する内容を絞って、「大学において、学習効果を最大化するグループワークの最適な人数を知るためにはどのような研究計画を立てればよいか?」という問いについて、Think Pair Share の流れに沿って考えていきます。 表 Think Pair Share の流れ
番号 内容 所要時間
1 1 人で研究計画について考える 3分
2 2~3人で計画について議論する 5分
3 2~3人で話したことを全体に共有する 3分
まず、学生は1 人で実験計画を考えます(1)。 その後、近くの学生同士でペアになって、人数が合わない場合は3 人グループになって議論します(2)。 そうすると、 「まず、何をもって学習したかを決めないといけないから、試験の成績を効果の基準としよう」 「講師が異なるとその影響が結果に出てしまうため、講師は同じにしないといけない」 「実験的に行うには倫理的な配慮が必要だ」 など、研究を実施する上で考慮しなければいけないポイントを挙げてくれます。 そして、それらを全体で共有して、教員から適宜フィードバックすることで、研究に関する理解を促します(3)。

その手法を実践して良かったこと

考えた研究計画が完全に一致するということは少なく、学生同士話し合いを通して、それぞれの計画のメリット・デメリット、改善案を議論してくれていました。その活動を通して、研究計画を立てる際には様々な点を考慮する必要があることを深く理解してくれていたようです。ただ、話を聞いているだけでは、得られなかったことを学んでくれたと感じています。 また、考えて議論するという構成をとっているため、議論する時に話せない人が少ない点がまず良かったと思います。もし、1 人で考える時間をとらずに最初からペアで話してくださいとすると、考えを練る時間もないですし、話せる人がずっと話してしまうという状況が生まれやすいです。 そして、2~3 人で話すという点も、話に参加しないフリーライダーを少なくするという点で良かったと思います。6 人で議論する場合、単純に考えて、2 人で議論するときに比べて、1 人あたり話せる時間が 1/3 になりますし、議論に参加しないフリーライダーが多くなります。

その手法を実践して感じたデメリットや難しさ

まず、デメリットとして挙げられるのは時間です。1 人で考える、ペアで共有する、全体で共有するという流れで実施すると、少なくとも10 分はかかってしまいます。そのため、ここぞ、というところで使わないと授業で伝えられる内容が少なくなってしまいます。 共通授業に関しては、105 分間の中で、大学における学び、研究、学術情報の検索方法、研究倫理など多くの内容を伝える必要があったため、Think Pair Share が最も長いワークになりました。研究計画を考えるワークとしてこの手法を用いた理由は、研究計画を模擬的に立てることで研究というものを、ほんの一端ではありますが、体験してもらえるだろうと考えたため、また、授業中盤で学生の注意を引いて集中力を維持したかったためです。Think Pair Share は時間がかかるため、授業全体の設計が重要になってきます。 また、難しさとしては、指示出しが挙げられます。おそらく「教育の研究に関する計画を立ててください」という漠然とした指示出しでは上手くいっていなかったと思います。その指示出しを受けても、学生は何をすれば良いかわからなくなってしまい、1 人で考える時間、議論する時間は無駄になってしまう可能性が高いです。そこで、考えてもらうところを絞り、「大学において、学習効果を最大化するグループワークの最適な人数を知るためにはどのような研究計画を立てればよいか?」という、まだ詳細に決める必要があるところはありますが、何を考えれば良いかわかる程度の具体性をもたせました。

これから実践する先生へのアドバイス

Think Pair Share を導入するにあたって、指示出しはできるだけ具体的であること、学生の意見を聞いたら教員からフィードバックすることなど多くの留意点がありますが、ペア作りが上手くいかずに、この手法を使わなくなってしまったという声を聞いたことがあります。そこで、ここでは本授業で用いたペア作りに関する3 つの工夫を詳しくお話しさせていただきます。 1 つ目は、座れる席を制限したところです。授業を実施したのは900 番講堂など広い教室で、100~200 名が入るには少し大きな教室でした。そのため、一番後ろあたりの席は座らないよう、教室の後方で配布資料を渡して、それよりも前に座るよう誘導しました。そのおかげで、広い教室で学生が点々に座るのではなく、ある程度密に座ってくれました。そうすることで、ペアを作りやすい環境、議論しやすい環境を作りました。 2 つ目は、ペアの作り方を具体的に指示したところです。ペアを作る時に、「近くの学生でペアを作ってください」という指示出しではなく、「長机の端からペアを作って、真ん中になってしまった人は右のペアに入ってください。机に1 人しかいない場合は、後ろの机のペアに入ってください」とかなり具体的にペアの作り方を指示出ししました。このように指示出しするとペアの作り方が機械的に決まるので、ペアを作ってもらいやすくなります。 3 つ目は、ペアを作る時間を少し設けたところです。ペアを作って議論するという活動を同時にやってしまうと、ペアを作らずに1 人になってしまうことがありました。そこで、ペアを作る時間を別途設けてペアができるまで待つことで、学生も少し移動してペアを作るようになってくれました。 工夫すれば大人数授業でも Think Pair Share を取り入れることができるので、ご興味がある方は試していただければ嬉しいです。

Think Pair Share

所要時間

10分

活動単位

個人 → グループ → 全体

大人数への適合度

概要

Think Pair Shareとは、教員から出された問いに対してまず学生1人で回答を考え(Think)、次にペアを作って考えた回答について話し合い(Pair)、その内容を全体で共有する(Share)、という方法です。
手法の流れ かける時間
1人で問いに対して回答を考える(Think) 1?3分
ペアで回答について話し合う(Pair) 2?5分
全体でその内容を共有する(Share) 2?5分

特徴

・まず1人で考える時間があるため、ペアで共有する時に話し始めやすい ・ペアで話す形式であるため、ワークに参加しないフリーライダーが出にくい ・質問があれば、すぐにでも授業に導入できる

よくある問題と対応策

よくある問題 対応策
ペアを作ってくれない ・事前にペアが作りやすい座席指定をする ・ペアを作る時間を設ける ・ペアを作る補助をする ・ペアが機械的に作れる指示出しをする*1
問いかけへの学生の反応が悪い ・問いかけに対して学生がどのように返答するかを具体的に想像して、問いかけの内容が明確かを確認する ・第3者に問いかけの内容を確認してもらう
*1: 例えば、机の両端からペアを作り、真ん中の人が余ったら右のペアに入る

注意点

・意外と時間がかかるため、問いかけの内容は授業の中心的なトピックに関連付ける ・できるだけペアでシェアした内容を全体で共有する(そうしないと学生の疑問や議論をふまえた授業展開ができない) ・予想しない答えが出てきたとしても、最初から否定や無視をせず、対応する(そうしないと、今後学生は自由に発言できなくなってしまう)

実践例

Think Pair Share の実践