ここでは、学生同士が相互に評価しあうピアレビューの効果的な導入方法について紹介します。課題の成果物に対する評価は教員が行うものだと考えられていますが、学生同士で行うこともできます。また、学生が相互に評価するピアレビューは、教員および学生の両者にとってメリットのある方法です。教員にとっては、学生が行った評価を参考にしながら最終的な評価ができるため教員の負担は減ることが期待されます。また、学生にとっては評価をうけるだけではなく、他者の成果物に対する評価をすることで、自身の成果物の質が向上することも示されています(Lundstrom & Baker 2009)。
ここで、学生同士に評価させる場合、評価の妥当性や信頼性に問題が生じることを懸念される方もいらっしゃるかと思いますが、適切な方法を用いることで、その点を補うことができます。以下、ピアレビューの手順および効果的な実施方法をご紹介します。
ピアレビューの手順
ここでは課題をレポートだとしてピアレビューの流れを説明します。まず、学生はレポートを作成します。次に、そのレポートを学生同士で交換し合い、お互いのレポートを評価します。そして、その評価を元に課題を改善するという流れです。ピアレビューは、レポートのみならず、プレゼンテーションやポスターなど幅広い課題の成果物に応用できます。より具体的な手順に関しては、
ピアレビューのページや
本部門が提供している「+15 minutes」の冊子をご参照ください。
効果的な実施方法
授業にピアレビューを効果的に導入するためには、いくつかおさえるべきポイントがあります(Topping 1998; Dochy, et.al. 1999)が、下記の2点が特に重要になります。
・ピアレビューの評価観点を示す
・ピアレビューの練習の機会を設ける
以下、それらについて詳しく説明します。
ピアレビューの評価観点を示す
1点目はピアレビューの評価観点を明確に示すことです。そうすることで、学生は評価のポイントを学び、課題において重視するべき点を明確に理解することができます。また、教員と学生の評価観点が共有されることから、学生による評価であっても、その妥当性や信頼性は高まります。実際、評価観点が明確に提示されることで、課題の成果物に対する学生による評価と教員による評価の相関が高くなることが示されています(Flachikov & Goldfinch 2000)。このように、ピアレビューにおいて課題における評価ポイントを明示することは非常に有用です。
ここでは、評価観点を示す効果的な方法として、ルーブリックを紹介します。ルーブリックとは、課題の成果物の評価観点と評価基準が明示されたシートです。評価基準とは、どのような内容であれば低評価、高評価なのかが記述されているものです。例えば、レポートのルーブリックで、「構成」という評価観点があった時に、単なるチェックシートであれば、その観点に対して1?5点の範囲でそれぞれの学生が点数をつけます。一方、ルーブリックでは「それぞれの文章の関係性が明確で一貫性がある」ものが5点、「それぞれの文章の関係性が不明確で一貫性がない」ものが1点というように、配点の根拠を明示します。評価観点のみを提示することも有用ですが、さらに評価基準も提示するルーブリックは学生の学びをさらに促すことが期待されます。是非ルーブリックをご活用ください。ルーブリックの作り方に関しては書籍「大学教員のためのルーブリック評価入門」(佐藤ら 2014)が参考になります。
ピアレビューの練習の機会を設ける
2点目は、非常に重要ですが見落とされやすい、ピアレビューの練習についてです。実は、ピアレビューを導入したとしても、相互のフィードバックが実際の成果物の改善につがなっていないことが指摘されています(Min 2006)。その理由としては、学生が行うフィードバックの内容が具体的でなく、改善につながりにくいためだと考えられています。実際、台湾人の学生が英語でエッセイを書く際に、ピアレビューの練習をしなかった場合はピアレビューをしても全体の約10%しか成果物の改善が見受けられなかったのに対して、練習した場合では、全体の約70%に成果物の改善がみられたことが示されています(Min 2006)。
具体的なピアレビューの練習においては、以下の項目がポイントになります。
・教員がピアレビューの実演をする
・評価観点を元に学生が成果物を評価する
・学生の評価に教員がフィードバックする
参考のため、実際に Min らがエッセイのピアレビューの練習で用いていた方法(Min 2006)を紹介します。教員による実演に関しては、4つのステップで行われました。
- 文章から著者の意図を理解する
- 文章の問題点を見つける
- どの点が問題かを明確に指摘する
- 具体的な改善案を提示する
上記のステップについて実演をみた後、学生はこれらのステップを意識してピアレビューを行い、その評価に対して教員がフィードバックするという流れでした。このように、作成者の意図を理解して問題点および具体的な改善策を提示する練習をしてもらうことで、学生が具体的にピアレビューをどのように行えばよいのかを理解することができます。そして、それが課題の成果物の改善につながることがわかっています。
まとめ
ここでは、ピアレビューの効果的な実施方法について紹介しました。具体的には、以下の項目が実施において重要です。
・ピアレビューの評価観点を示す
・ピアレビューの練習の機会を設ける
評価観点を示す時は、評価基準も記載されているルーブリックが活用できます。また、ピアレビューの練習としては、まず教員が実演し、学生に評価してもらい、その評価に対して教員がフィードバックすることが肝要です。
このような効果的なピアレビューを授業に取り入れて、学生の学びを深めていただければ幸いです。より具体的な方法やポイントについて質問などございましたら、お気軽にアクティブラーニング部門にご相談いただければ幸いです。
(吉田塁)
参考文献
Dochy, F. J. R. C., Segers, M., & Sluijsmans, D. (1999). The use of self-, peer and co-assessment in higher education: A review.
Studies in Higher education,
24(3), 331-350.
Falchikov, N., & Goldfinch, J. (2000). Student peer assessment in higher education: A meta-analysis comparing peer and teacher marks.
Review of educational research,
70(3), 287-322.
Lundstrom, K., & Baker, W. (2009). To give is better than to receive: The benefits of peer review to the reviewer’s own writing.
Journal of Second Language Writing,
18(1), 30-43.
Topping, K. (1998). Peer assessment between students in colleges and universities.
Review of educational Research,
68(3), 249-276.
Min, H. T. (2006). The effects of trained peer review on EFL students’ revision types and writing quality.
Journal of Second Language Writing,
15(2), 118-141.
佐藤浩章監訳ほか(2014). 大学教員のためのルーブリック評価入門. 玉川大学出版部