SセメスターにKALSで同期型ハイブリッド授業を実施されていた岡田晃枝先生(大学院総合文化研究科 准教授)に、授業の様子や授業運営のポイントをお伺いしたインタビューのつづきです。一つ目の記事は、こちらからどうぞ。
中澤 ファシリテーションはどうでしたか?
岡田 ハイブリッドになったことで大きく変えるということはしませんでした。その日だけ変えると、オンライン参加の子たちが「自分のせいで」と萎縮してしまったり、教室で受けてる子たちが、自分がハイブリッドをお願いしたらこんなふうに授業の構成変わるんだと思うと不安になるかなと。ですからあえて変えないようにして、いつも通りの授業を行えるようにと考えました。私の場合は、全体に対して私とTAからのワンポイントアドバイスと、学生どうしのグループディスカッションを交互に行うというのがルーティンの形です。授業の回によって構成が違うといったことはなくて、毎回ほぼ同じ流れなので、同期型ハイブリッド授業があるかないかで授業回を入れ替えるような必要はなくて、その点では楽でした。もしかしたら講義型の授業で、グループディスカッションを取り入れる回と取り入れない回があるような場合は、オンライン参加の子がいるかどうかで構成を変える必要が出てくるのかもしれないですね。手間やトラブルのリスクを考えると、オンライン参加の子がいる時にはグループディスカッションを入れずに講義だけにしたいと思われる先生もいらっしゃると思うので、そうなると13回全体の流れが、オンライン参加の子がいるかいないかで変わってきますよね。コロナ欠席の学生が出るかどうかは授業直前にならないとわからないことが多いから、それだと大変だろうなと思いますし、授業全体の構成という面から見ると好ましい状況ではないですよね。
そう考えると、今後もハイブリッドでの対応が継続的に必要になるのであれば、いつどの回でハイブリッドが入っても大丈夫なように備えておくことが必要になるかもしれないですね。でもその結果、全部が講義型の、受動的な学びの授業ばかりになるのは学部教育全体から考えて良いことではないと思います。
中澤 対面だとグループディスカッションの様子を見に行ったりされると思うんですけれども、同期型ハイブリッド授業の場合は、どのようにされていましたか?
岡田 教卓に自分のパソコンとKALSのパソコンを用意して、KALSのパソコンでブレイクアウトルームに入っていました。ブレイクアウトのほうに入るパソコンと、全体を見るパソコンの2台を置いていたということです。
教室の中のグループは観察していれば声や学生たちの行動で介入が必要かどうかわかりやすいですよね。先ほど言ったようにオンライン参加の学生がいるグループのテーブルをウェイティングルームにセットしていたので、そのグループの声は教室内にいると聞こえません。だから教室全体を見回しながら、ブレイクアウトルームに入っているほうのパソコンで時折小さい音声でウェイティングルームのグループの状況を確認していました。ただ、隔てているのがガラスなので視覚的な観察はできますし、扉を半開きにしていたので教室内を机間巡視するついでにウェイティングルームのグループにも直接声を掛けられる状況でもあったので、それほど問題はなかったです。
別の教室で行った時は、オンライン参加の学生がいるグループのテーブルを、他のグループから少し話して教卓の近くにセットすることで、ディスカッション用のミーティングオウルのマイクで私の声も拾えるし、グループディスカッションの時にそのグループが使っているPCのモニターを教卓から確認できたので、教室が狭ければ狭いなりに、グループディスカッションと全体での講義の移り変わりをうまくやる工夫は可能でした。
中澤 グループディスカッションのモニタリングやフィードバックは普段教室で行ってるのと同じような感じでできたというところですか?
岡田 そうですね。グループのところに行ってできましたし、時々教卓のパソコンでモニタリングもできたので、そういった意味ではいつも以上に観察ができたように思います。
中澤 同期型ハイブリッド授業の運営などについて、改善したほうがよいと感じていることはありますか?
岡田 実は、対面授業になったことによってTAたちは結構苦労している面があります。2020年度に全面オンライン授業が始まったときに、それまでと全く勝手が違うからTAたちは苦労しているだろうなと思って、初年次ゼミ文科の授業TAたちにどんなサポートが必要かを尋ねるアンケートをしたところ、なんとオンラインになってものすごく楽になりましたという回答が多かったんです。何が楽になったかというと、機器のセッティングでした。初年次ゼミ文科はプレゼンテーションが重要な授業ですので、毎回機材ボックスの鍵を開けてパソコンをつないで、モニターに出力できるようにして・・・とやっていても、とくに1号館なんかでは機材トラブルがけっこう発生していて何度もパソコンを操作し直したり接続し直したり、それでもトラブルが解決しないで時間を食ったあげくスライドなしで発表といったようなこともあったようです。機器に詳しいTAの方が少ないですから、自分が悪いのか持ち込んだパソコンが悪いのか、それとも教室の機械が故障しているのかわからなくて、非常勤講師控室に教室機材点検の依頼も出せないでそのままになってしまったという話も聞きました。さらに、せっかく先生のパソコンをつないで動作確認していても、学生が自分のパソコンをつないでほしいと言ってきて、接続しようとしたら特別な端子が必要で非常勤講師控室に走った、なんていう報告もありました。機材トラブルによる授業の中断というのは履修生にとって大きな損失なので、TAたちはそれをとても恐れていたけれど、対面授業の教室ではそれなりの頻度で生じていたんですね。それがZoomでの画面共有になったらなくなった、ほんとに楽だと言ってきたんです。
中澤 そうなんですね。
岡田 今回対面授業になったことによって、それが復活しただけではなく、ハイブリッドになったらさらに別の機材も接続しなくちゃいけなくなるんですよね。そういった意味で、TAたちの苦労は計り知れない。授業内容と研究の専門性から先生たちはTAを選んでいるので、文系の院生だととくにそれと機器関連の知識・経験とが一致しないことが多くて、授業形態の多様化はTAたちには負担になります。それに備えて学術的な専門性だけでなく臨機応変な機器対応もできるようにTA全体の底上げをすることが適切なのか、あるいは複雑な機器対応の部分だけ切り取って別の人をあてがうのが適切なのか。もちろん大学・学部のほうでもそれを認識してくれていて、業者さんに加えて特定の機器専門のTAも学内に待機するようになってはいます。授業を受けながらその授業での機材関連のサポートをしてくれる学生に謝金を支払うクラスサポーターという制度もできていて、それも面白い人材の利用の仕方だと思いますが、そういう下支えをする人たちをどう育てていくかですよね。特定の人だけができるようになるのではなくて、できるだけ多くの学生たち、院生たちが何かあった時にすぐに機器の接続を確認して直したり、授業で使える便利なツールを機器が苦手な先生に提示できるようになるのがいいのだとはと思うんですが、それは一体どの組織や部署の役割なのか、どの範囲を対象にするのか、ですね。
それに関連して、授業の中でミーティングオウルを使って接続をしてると、他の授業で使ったっていう子もいましたが、初めて見る子もいて、声を出したらカメラが回るというのにものすごく興味を示して自分も試させてくれと言ってくる子もいました。ミーティングオウルだけでなく、授業でどんどんいろんなツールを取り上げて、学生たちに使う機会をあげるとか、その仕組みを知る機会をあげることが、長い目で見るとそういった人材を育成することにつながるのかなという気もしています。
中澤 TAの仕事ですけれども、グループディスカッションのファシリテーションや介入は、ハイブリッドになったから変わったっていうところはなさそうでしょうか?
岡田 私の授業に関してはないですね。今学期実施した同期型ハイブリッド授業では、オンライン参加の学生が入ったグループはどの授業も1グループだけだったので。そこに近づいてTAや私がコメントをしたりすれば、カメラにも入りますしマイクも音を拾うので、オンラインの子にもちゃんと反映されました。TAのミニ講義も、私の講義パートと同じくいつもどおりに行いました。
中澤 なるほど。
岡田 KALSでのハイブリッド授業では、オンライン参加の学生がいるグループはウェイティングルームに置き、対面参加の学生だけのグループはスタジオに配置した、と先ほどお話しました。私の授業のTAはとても優秀かつベテランなので、私がとくに指示をしなくても、スタジオ教室の中のグループだけでなくウェイティングルームのグループにも同じ回数、足を運んで、オンラインで接続している学生にもきちんと観察と声かけをしてくれました。でも慣れていないTAだと、もしかしたらスタジオ教室の一角にとどまってしまってウェイティングルームの子たちに目を配るのを忘れてしまうといったこともあるかもしれません。ハイブリッドのところにはこんなふうに関与して欲しいと教員から指示する必要があったかもしれません。
中澤 ほかには何かありますか?
岡田 KALSは環境が良過ぎます(笑)。KALSの環境を使ってスムーズなハイブリッド授業が行えたとしたら、それをどうやって通常の教室に落とし込んでいけるかというところ、そこの橋渡しが重要なのではないかなと思います。私が担当している初年次ゼミナール文科では、自分で研究計画を立てて少しずつ研究を進めて、それを授業に持ち寄ってお互いにコメントし合うのがとても重要な部分です。コロナで欠席した場合、濃厚接触からの発症のような場合、下手すると2回、3回連続で教室に来れない学生も出てきます。その場合に、資料配布と質疑応答という対応で十分にフォローできるのかどうか、私は不安に思っています。なので、ハイブリッドの授業がもっと楽に行えるといいですね。もちろん、学部も色々とお世話をしてくださっていて、困ったら頼れるベースはかなりできているとは思うんですけども、誰かを頼らなくても、機械に慣れていない先生でもハイブリッド授業をもう少し抵抗なく導入できるように、アクティブラーニング部門の先生たち中心に、ハイブリッド導入のハードルを下げるような発信をしていただくといいんじゃないかと思います。同期型ハイブリッドで授業をするのに適していないタイプの授業、あるいはそう思い込まれているような分野の授業なんかもあると思うので、そういったところに同期型ハイブリッドを入れたときの効果的な授業方法や運営のフォローになるような情報を発信してもらえるとうれしいです。
中澤 オンラインで参加されてた学生からの感想や学習環境に対するフィードバックはありましたか。
岡田 今のところは特に問題や不満は出てきていないですね。KALSとは別の教室で同期型ハイブリッド授業を行ったときには、終了の合図をしてもオンライン参加の学生がいるグループはディスカッションが終わらなくて、議論が盛り上がってるからもうちょっと時間をくださいと言われてしまいました。対面でやるのと同じぐらいの熱量で参加できていたようでした。
中澤 ありがとうございます。今日、お話をお伺いして、岡田先生が学生のことを第一に考えられて授業を運営されていることがとてもよくわかりました。また、抵抗なく同期型ハイブリッド授業を行うための授業方法・運営に関する情報発信という宿題をいただきました。今後のアクティブラーニング部門の活動の中で取り組みたいと思います。