はじめての「大福帳」

これまで、アクティブラーニング部門のウェブサイトなどで「大福帳」についてご紹介してきました(オンライン授業で大福帳を使うオンライン授業で大福帳を使う:運用のふり返りと改善)。

今回は、2022年度Sセメスターにアクティブラーニング部門で開講した全学自由研究ゼミナール/高度教養特殊演習「SDGsを学べる授業をつくろう」で、初めて「大福帳」を使った中村長史先生(アクティブラーニング部門 特任助教)に「大福帳」のメリットなどをお伺いしました。

「大福帳」を使ったメリット

中澤 大福帳を使ってみて感じたメリットはありますか?

中村 メリットとしては2つあるかなと思っています。1つ目は学生に対して“見守ってるよ感”を出すのはメリットかなと思ったんですよね。僕たちのやってた授業って、そんなに人数も多くなかったですし、かなりアクティブラーニングの授業で、もちろん授業中もかなりコミュニケーションを学生と取れてたと思うんです。けれども、次の授業までの間にもコミュニケーションを取る機会があるっていうのは、すごく良かったんじゃないかなと。学生からしてもきっと“見守られてる感”みたいなのがあって良かったんじゃないかなと思ってます。

もう1つは、学生にとっても僕たち教員にとっても、授業で学んだことを振り返って可視化する機会になることです。これは、僕が想像してた以上に大きいんだなと思っていて。アクティブラーニング型の授業だから、そういう機会をわざわざ明示的に設けなくても大丈夫だろうという気持ちがどこかにあったんですけれども、実際やってみると、―まあ学生がどう感じているかは学生に聞かないと分からないですけども―僕自身が、自分が授業でやったことについてのフィードバックをある種もらうわけなので。それを基に、じゃあ次の授業こういうふうにしようって、すぐに反映できるという意味で良かったなと思ってます。学期末のアンケートも活かすようにしてるつもりなんですけど、それを活かせるのは次の年なので。すぐにフィードバックがある、活かせる機会があるという意味で良かったのかなと思ってますね。

中澤 これまで、他の授業ではコメントペーパーやミニッツペーパーを使用されたことはないんですか?

中村 毎週課題を出して、課題に対してコメントすることはあるんですけども、学生が授業を受けた感想についてコミュニケーションを取るってことはなかったんですよね。それをできたのが、2つ目のメリットですよね。1つ目の“見守ってるよ感”は、課題にフィードバックをしてたら感じられるんでしょうけれども。実は、自分が学生の時にミニッツペーパーを書いたことがあるんですが、その時にフィードバックを特に先生がなさらなかったんで、毎回ただ書かされてるだけと感じたんです。「めんどくさいな、またこの時間に書くんでしょ」と、惰性でやってたのが頭にあったので、自分が教員になってからも敬遠してたんです。今回、中澤先生と一緒にやる授業の中で導入してみて、効果を確かめられたということです。学生が本音を書いてるかどうかは分かんないですけど、彼ら彼女らの感想っていうものが出てきて、それについてこっちもフィードバックする過程で考えられるっていうのは良かったなって思ったってことですね。

中澤 ミニッツペーパーは、出席代わりで出させてるっていう先生が多いですよね。確かに、学生のメリットっていう点だと少ない感じはしますね。

「大福帳」のデメリットや運用の工夫

中澤 逆に、デメリットとか、改善点は何か感じられましたか?

多人数への対応

中村 人数が多いと大変だなと思いました。他にもいろんな授業とか業務がある中で、どこまでそこに時間を割けるかっていうのは、人数が増えた時にはちょっと分からないなと思ってて。これまでにもずっとやってこられて人数が多い時もあったと思うので、何か工夫されてることとかがあれば逆に教えてほしいですね。

中澤 そうですね。大福帳は先行研究でも色々なことが言われていて。人数が多い場合とかだと「見ました」というスタンプを押すとか。コメントは書かなくても、さきほどの“見守ってるよ感”を出す簡易的な方法を取るのは一つの手だっていうのはありますね。人数が多い場合はそういうものでもいいのかなと思いますね。あとはコメントをする人数をあらかじめ決めておくとか。

中村 ああ、なるほど。

中澤 たとえば、100人学生がいたら毎回20人ずつコメントを書き、他の学生はスタンプにするのも一つの手かなと思いますし。あるいは、質問にはコメントを書いて、感想だけの場合はスタンプでというやり方もあるのかなと思いましたね。

中村 ありがとうございます。今そのお話聞いてて、僕が最初に挙げた2つのメリットってのは、どっちも活かせるなと思って。スタンプであっても見てることには変わりはないので、“見守ってるよ感“っていうのは感じてもらえると思いますし。それから、教員が詳細にコメントするしないにかかわらず、学生が書くこと自体には変わりがないので、学生自身の振り返り、イメージ的に可視化できることにはなりますし。コメントしないにしても読むことには変わりはないので、教員にとっての振り返りや授業改善に活かすこともできるので。そういう意味では、人数が多い場合は無理に全員にコメントバックしようとせずに、おっしゃったようなやり方でやっても、同様の効果を得られるのかなと思いました。

学生からのコメントや質問を共有する

中村 あと今思い出したのは、一つ自分なりに工夫したことがあって。学生から出てきたコメントや質問でいいなと思ったものを、次の授業の冒頭で紹介するようにしていて。そうすると取り上げられてうれしいって気持ちも、もしかしたらあるかもしれないし。あと同じクラスメイトから出てきたもので、「あ、こんなこと考えてる人もいるんだ」みたいなことで他の学生の刺激にもなると思ったので。それは、自分なりに工夫をしてみたつもりですね。そうしないと何か学生から、何か毎回書かされて、書けって言われるから書くみたいな、なんかちょっとそういう、義務だから書くみたいなになっちゃうともったいないなと思ったので、そういう仕掛けをしてみたつもりです。

中澤 そうですね。私は、学生が大福帳に書いた質問のうち、これは全員に共有しておいたほうがいい質問だなっていう場合は授業で紹介しますね。ただ、授業で紹介できるのって時間の都合で1つだけだったりとかするので、Googleスプレッドシートに質問とそれに対する回答を書き出して、それを共有するっていうふうにもしてますね。

中村 あ、なるほど。

中澤 他の人から出てきた質問で皆さんにも知ってもらいたいことはここに載ってるので見てくださいと案内をします。どの程度見ているかは分からないですけど、スプレッドシートに質問と回答が蓄積されているということですね。

中村 それはすごくいいですよね。次の年に授業をする際にも、去年どんな反応があったかなって見る時も、そうやって整理されてるといいので。確かにそれはちょっと僕もやってみようかなと思います。

中澤 そうですね。あと、そういったことができるのはオンラインでの大福帳だからだと思っていて。これが紙の、―対面だと昔は紙でやってたんですけど―そうするとなかなか手書きでコメントを書くのも大変なので。学生も大変だと思うんですけど。

中村 回収も大変ですもんね、大人数だと。それ用のTAさんがいたりとかね。

中澤 そうそうそう。授業時間中に大福帳を書く時間を取らなくちゃいけなかったりするので。オンライン大福帳というのも、それ自体がメリットかなと思いますね。

あらゆる授業で活用できる

中澤 どのような授業で活用できそうというアイデアはありますか?

中村 そうですね。導入する前の僕の感覚としては、大人数の、ちょっと工夫してても一方向にどうしてもなりがちな授業で導入するといいんじゃないか、もう何ならそれだけで導入しとけばいいんじゃないのって思ってたんです。それ以外のいわゆるアクティブラーニング型の授業の場合は、それをするまでもなく学生とコミュニケーションを取ったりする機会もあるし、と思ってたんですけど。今回、少人数のアクティブラーニング型の授業で導入してみてとても効果を実感できたので、今となってはどの授業でも導入するといいのではないかなと思いますね。どの授業で導入する必要性も高いんじゃないかなと思ってます。気になってたのは、人数が多いとちょっと先生が大変っていう問題ですけど。それも工夫次第で乗り越えられる、同様の効果を得られるってことも分かったので。そういう意味で、今となってはすっかり大福教、大福教? 大福帳。大福教とか言っちゃった(笑)。大福帳信者になってしまったかもしれない。

中澤 ミニッツペーパーだとやっぱり1回限りで終わっちゃうのは悲しいなって、すごく私は思っていて。13回分が載ってるっていうのは、こちらにとっても学生にとってもいいし。やはりそれが大福帳のメリットなのかなっていうのは思いますね。

中村 そうですよね。逆に言うと、ミニッツペーパーでも問題ないですよってなる場合は、その先生の授業をちゃんと構造化できてますかみたいなことがあるのかなって、今伺ってて思ったんですよね。ある程度構造化されてると、学生の反応がその回によってどうなるのかっていうのが気になるわけなので。ぶつ切りだと、困るっていうところがありますから。そういう意味でも、自分の授業がちゃんと構造化されてるのかしらっていう判断する一つの材料かもしれないです。

中澤 確かに、13回の大きな流れでの授業づくりがどうなってるかっていう、点検にもなりますね。

中村 そうですよね。

中澤 今回の授業では、最終回の授業で大福帳を読み返してみましょうという時間をつくって、学生に授業自体の振り返りをしてもらったんですけど。なかなかミニッツペーパーだとそれが難しいかなっていうことがありますよね。Googleフォームで毎回コメントを出してもらって、それを何らかの形で見てもらうとかは、もしかしたらできるかもしれないけですが。大福帳はプライベート感があるというのも、私は個人的にはいいかなと思いますね。

中村 そうですね。連絡帳みたいな感じがあっていいかもしれないですね。

中澤 そうですね、交換日記みたいな感じで。

中村 交換日記みたいな、そうそう。

中澤 あと何か補足などありますか?

中村 そうですね。これを読んでる先生も、大福帳は自分の授業では関係ないかなと思ってる人も、1回ちょっとだまされたと思って。そんなに手間は思ったほどはかからないので、やってみるといいんではないでしょうかというのが、1回初めてやってみた僕からのメッセージです。

中澤 そうですね、私はもう大福帳信者で、どんな授業でも基本使ってしまっているので、新しい視点から話を聞けて良かったです。ありがとうございます。

中村 ありがとうございました。