ワークショップ「第3回東大生がつくるSDGsの授業」(2022年9月4日)開催報告

カテゴリー: イベント

先日開催しました下記のワークショップに関して、当日の模様を簡略ながらご報告します。 チラシPDF 日時:2022年9月4日(日)14時~16時 場所:オンライン 参加者数:10名

1.概要

東京大学総合文化研究科・教養学部附属教養教育高度化機構アクティブラーニング部門では、2022年度Sセメスターに全学自由研究ゼミナール/高度教養特殊演習「SDGsを学べる授業をつくろう」を開講しました。本イベントは、その授業の中で特に優れた授業案を設計した学生が、高校生を対象とした授業を実施するものです。2020年度より毎年開催しており、3回目の開催となりました。新型コロナウイルスの流行状況を踏まえてオンライン(Zoom)での開催でしたが、講師の学生は可能な限り双方向性を保てるような授業案を設計してイベントに臨みました。

2.プログラム

14:00~14:30 趣旨説明:中村長史(東京大学大学院総合文化研究科 特任助教) 14:30~15:30 授業「貧困ってなに?知らないことは解決できない」:宮部裕貴(東京大学教養学部 2年) 15:30~16:00 まとめ:中澤明子(東京大学大学院総合文化研究科 特任准教授)

3.授業の内容

「貧困ってなに?知らないことは解決できない」は、SDGsの目標1「貧困をなくそう」に関する授業でした。①貧困の現状を具体的な指標で説明できる、②現在取られている解決策の長所・短所を述べられるようになる、③以上を踏まえて、個人でも実践可能な貧困解決策を提示することができるようになる、という3つの目標を達成するべく、講師からの問いかけに対して参加者が1人あるいはグループでGoogleフォームに記入し、講師がそれにフィードバックをするという双方向的な形で進められました。

4.授業を行った学生の声

授業を行った学生に、参加者の反応はどのようなものであったか、そして授業を実施した感想を聞いてみました。 授業準備に関しては、「知っている」ことと、それを「教える」ことの隔たりの大きさを痛感しました。当初は可能な限り多くの知識を伝えるのが良い授業だと思っていましたが、必ずしもそれが正解とは限らず、生徒の目線から授業内容を見つめ直すことの必要性を学びました。こうした受け手の視点も勘案する姿勢は、授業に限らず、情報伝達全般において、今後とも意識していきたいです。 授業では、高校生の方々の発想力・思考力にとても驚きました。実際、高校生の皆さんには、授業の最後に「個人でも実践可能な貧困解決策の立案」という、この授業の最終目標でもある課題に取り組んでもらったのですが、そこであがった解答は、私の解説を反映しつつも、私も想定していなかったような視点が加えられた素晴らしい案ばかりでした。授業後に頂いた感想でも、この授業を通して新たに知ったことや生じた疑問を挙げて頂き、参加者の方々のSDGsに対する関心を少しでも深めることができたのだなと達成感がありました。準備も含めて「授業」することは大きな苦労が伴うなと感じましたが、一方で、自分自身の成長や受講者の方の反応も勘案すると、それだけの価値は十分にある営みだと思いました(宮部裕貴)

お問合せ先

教養教育高度化機構 アクティブラーニング部門 dalt[at]kals.c.u-tokyo.ac.jp

「模擬国連で学ぶ国際関係と合意形成Ⅰ」(2022年度Sセメスター)

全学自由研究ゼミナール/高度教養特殊演習「模擬国連で学ぶ国際関係と合意形成Ⅰ」(2021年度Sセメスター)の授業の様子を紹介します。2019年度Aセメスターから毎期開講しており、今回が6期目の開講となりましたが、受講者は9名(1年生2名、2年生6名、3年生1名)でした。 担当教員:中村長史(総合文化研究科・教養学部附属教養教育高度化機構)

1.授業概要

国際社会で生じる問題は、自然現象ではなく社会現象である以上、一人一人の力によっ てわずかながらでも良くすることもできるし、さらに悪くしてしまうこともあります。本学の学生には、この点を意識し、自分の頭で国際問題の解決策を考えられるようになってほしいと考えています。 そこで、この授業では、「模擬国連(Model United Nations)」というアクティブラーニングの⼿法を⽤いて、国際問題の解決法を考えました。多様な利害・価値観に配慮することの重要性を理解するには体感してみることが早道ですが、模擬国連の会議では、⼀⼈⼀⼈が⽶国政府代表や中国政府代表などの担当国になりきって国際問題について話し合います。⽴場を固定されている点ではディベートと同様です。しかし、相⼿を論破することで勝利を⽬指すディベートと異なり、模擬国連会議では合意形成が⽬的であるため相⼿の利害・価値観を尊重したうえでの妥協が重要になります。この点を重視し、授業内では対⽴の激しい議題・担当国を設定して、 ロールプレイ・シミュレーションに取り組みました。

2.授業の目的・到達目標

目的 国際社会本講義で学んだ概念と事例を使いこなして、現在の世界における問題の構図や原因、解決法を自分の頭で考えられるようになる。 到達目標 ①国際問題の構造や原因を説明できる【レポート1,2で評価】 ②国際問題をめぐる多様な⽴場(利害・価値観)を説明できる【レポート1,2で評価】 ③国際問題の解決における妥協の重要性を説明できる【レポート1,2で評価】 ④国連の資料を⾃ら調べて国際問題の分析に⽤いることができる【レポート1,2で評価】 ⑤国際問題の解決策について、選択肢を複数挙げて⽐較衡量したうえで、妥当と考えられるものを説得的に示すことができる【レポート1,2で評価】

3.授業の流れ

ガイダンスー模擬国連から学べること(第1回) 模擬国連によって一般に学べること・学べないこと、そして、本授業の模擬国連から学べること・学べないことを確認しました。そして、学べないことについて補完する方法を検討するとともに、学べることを意識して一学期間過ごすことの重要性を再確認しました。 模擬国連会議:イラク戦争(第2回~第7回) 2003年3月のイラク戦争開戦直前の国連安全保障理事会のシミュレーションを行ないました。第2回で議題概説を行ない、担当国を決定した後、第3回から第6回まで会議を行ないました。実際の国連安全保障理事会の構成国のうち、中国(査察継続派)、フランス(査察継続派)、ロシア(査察継続派)、英国(即時開戦派)、米国(即時開戦派)の5つの常任理事国に「中間派」のチリを加えた6ヶ国を設定し、1ヶ国を1~2名で担当しました。現実の会議と異なり決議案が投票にかけられ、即時開戦を避けつつも、査察期限を明確に設け、その結果次第では武力行使への道が開かれる内容の決議案が採択される結果となりました。 第7回では、まず、このような会議の内容について、担当国の立場から振り返り、自国の利益をどの程度反映できたか、より適切な政策立案・議論・交渉等はなかったかを検討しました。そのうえで、個人の立場から会議を振り返り、国際社会全体の利益のために、どのような方法があり得る(た)のかを議論しました。2つのふりかえりを踏まえて、受講者は授業外でレポート1に取り組みました。TAを務めてくれた学生が前年度の受講者であったことから、前年度の模擬国連会議との比較といった観点から議論することもできました。 模擬国連会議:DPRKの核開発(第8回~第12回) 2017年9月のDPRK(朝鮮民主主義人民共和国)による6度目の核実験後の国連安全保障理事会のシミュレーションを行ないました。第8回で議題概説を行ない、担当国を決定した後、第9回から第11回まで会議を行ないました。実際の国連安全保障理事会の構成国のうち、中国(圧力強化消極派)、フランス(圧力強化積極派)、ロシア(消極派)、英国(積極派)、米国(積極派)の5つの常任理事国に日本(積極派)を加えた6ヶ国を設定し、1ヶ国を1~2名で担当しました。現実の会議と同様、経済制裁の強化を盛り込んだ決議案が採択される結果となりました。 第12回では、イラク戦争の際と同様、まず、このような会議の内容について、担当国の立場から振り返り、自国の利益をどの程度反映できたか、より適切な政策立案・議論・交渉等はなかったかを検討しました。そのうえで、個人の立場から会議を振り返り、国際社会全体の利益のために、どのような方法があり得る(た)のかを議論しました。2つのふりかえりを踏まえて、受講者は授業外でレポート2に取り組みました。 まとめー模擬国連から学んだこと(第13回) 各自が模擬国連から学んだことについて、①国際関係の知識・技能面、②合意形成の知識・技能面の両面からふりかえりました。教員からは、2000年代のイラク情勢が2010年代以降のDPRK情勢、ひいては大量破壊兵器全般をめぐる問題に、どのような影響を与えているかを問題提起し、受講者間の議論を促しました。また、来セメスター以降の模擬国連の授業をよりよくしていくための方法を検討しました。 授業スケジュール

4.受講者の感想

  • 議題についてはもちろんのこと、自分がその国の立場で意見を言わなくてはならないため、担当国について詳しく調べることに繋がった。
  • 私は自分自身国際情勢に興味のある方だと思っていたけれど、いざ模擬国連で議論するということとなると、知らないことが多いのだなということがわかりました。決議案や参考文献の精読を通じて学んだ知識や、実際の会議で学んだ合意形成の手法により、私の外交を見る目が養われたように感じます。また、国際関係論や国際法で学んだことをこの模擬国連の場で活かすことによって学びが深まったので、かなり学習効果があったと思います。
  • 非公式会合では使えなかったりする情報などもたくさんあったが、自分の知らない事実や事件などが自分で調べた中で知れた。また、実際に模擬国連をしている中で、様々な国が自国の利益を求めて、発言をしたり、交渉したりする様子を見て実際の国際関係の様子がつかめた気がした。
  • 英語で多くの資料を読む必要があり、授業準備は大変だった。また、会議中でも、自分の予想から外れた他国の発言や要求に対処して簡潔に返答することがとても難しかった。それでも、要求が通った時の達成感は大きく、国際関係や会議行動について多くのことを学べたので、授業はとても楽しかった。受講して良かったと思う。
  • 講義方式での学びと比べると頭に入る知識量は少ないとは思いますが、知識の定着度は圧倒的に高いと思います。実際に交渉に使うために自分で情報を探すことが多かったので、本を読むときにも普通に読むよりも頭に定着するように感じました。
  • 日々ニュースで見るような大国同士の対立が必ずしも安保理会議の舞台裏でそのまま作用しているわけではないことや国力がそのまま発言の重みとしてあらわれることが興味深かった。また、国連のHPで実際の決議案を見ることは初めてだったので、このような機会があってよかった。
  • 達成したいことの優先順位をつけ、場合によっては最優先事項を通すために他の事項を諦める手法は様々なことに応用できそうだと思った。また、決議案を書く中で、あえて通らなさそうな要求を先に提示することで譲歩の材料にすることの有効性も学べた。
  • いかに拒否権を使わせないラインまで妥協を引き出せるかが大事だと思った。自分側のボトムラインと同様に相手側のボトムラインについても考慮する必要がある。会議においては伝えたい要点が相手にしっかり伝わる話し方をする必要がある。早口になったり自分の知識をひけらかすような話し方では議論を進めるといった観点においては意味がないと思った。

お問合せ先

教養教育高度化機構 アクティブラーニング部門(担当:中村長史) kals[at]kals.c.u-tokyo.ac.jp