「模擬国連で学ぶ国際関係と合意形成Ⅱ」(2022年度Aセメスター)

全学自由研究ゼミナール/高度教養特殊演習「模擬国連で学ぶ国際関係と合意形成Ⅱ」(2022年度Aセメスター)の授業の様子を紹介します。2019年度Aセメスターから毎期開講しており、今回は7期目の開講となりましたが、受講者は15名(1年生8名、2年生5名、3年生1名、4年生1名)でした。 担当教員:中村長史(総合文化研究科・教養学部附属教養教育高度化機構)

1.授業概要

国際社会で生じる問題は、自然現象ではなく社会現象である以上、一人一人の力によっ てわずかながらでも良くすることもできるし、さらに悪くしてしまうこともあります。本学の学生には、この点を意識し、自分の頭で国際問題の解決策を考えられるようになってほしいと考えています。 そこで、この授業では、「模擬国連(Model United Nations)」というアクティブラーニングの⼿法を⽤いて、国際問題の解決法を考えました。多様な利害・価値観に配慮することの重要性を理解するには体感してみることが早道ですが、模擬国連の会議では、⼀⼈⼀⼈が⽶国政府代表や中国政府代表などの担当国になりきって国際問題について話し合い、決議案の作成や投票を行ないます。⽴場を固定されている点ではディベートと同様です。しかし、相⼿を論破することで勝利を⽬指すディベートと異なり、模擬国連会議では合意形成が⽬的であるため相⼿の利害・価値観を尊重したうえでの妥協が重要になります。この点を重視し、授業内では対⽴の激しい議題・担当国を設定して、 ロールプレイ・シミュレーションに取り組みました。

2.授業の目的・到達目標

目的 国際社会本講義で学んだ概念と事例を使いこなして、現在の世界における問題の構図や原因、解決法を自分の頭で考えられるようになる。 到達目標 ①国際問題の構造や原因を説明できる【レポート1,2で評価】 ②国際問題をめぐる多様な⽴場(利害・価値観)を説明できる【レポート1,2で評価】 ③国際問題の解決における妥協の重要性を説明できる【レポート1,2で評価】 ④国連の資料を⾃ら調べて国際問題の分析に⽤いることができる【レポート1,2で評価】 ⑤国際問題の解決策について、選択肢を複数挙げて⽐較衡量したうえで、妥当と考えられるものを説得的に示すことができる【レポート1,2で評価】

3.授業の流れ

授業スケジュール ガイダンスー模擬国連から学べること(第1回) 模擬国連によって一般に学べること・学べないこと、そして、本授業の模擬国連から学べること・学べないことを確認しました。そして、学べないことについて補完する方法を検討するとともに、学べることを意識して一学期間過ごすことの重要性を再確認しました。なお、今セメスターも、前セメスターに続き、全回ZOOMミーティングを用いたオンライン授業となりました。 模擬国連会議:シリア人道危機(第2回~第7回) 2010年代を通して続いているシリア人道危機についての国連安全保障理事会のシミュレーションを行ないました。第2回で議題概説を行ない、担当国を決定した後、第3回から第6回まで会議を行ないました。実際の国連安全保障理事会の構成国のうち、中国(シリア政府擁護派)、フランス(シリア政府批判派)、ロシア(シリア政府擁護派)、英国(シリア政府批判派)、米国(シリア政府批判派)の5つの常任理事国に「中間派」の南アフリカを加えた6ヶ国を設定し、1ヶ国を2・3人で担当しました。現実の会議と同様、拒否権が行使され、決議案は廃案となりました。 第7回では、まず、このような会議の内容について、担当国の立場から振り返り、自国の利益をどの程度反映できたか、より適切な政策立案・議論・交渉等はなかったかを検討しました。そのうえで、個人の立場から会議を振り返り、国際社会全体の利益のために、どのような方法があり得る(た)のかを議論しました。2つのふりかえりを踏まえて、受講者は授業外でレポート1に取り組みました。 模擬国連会議:女性、平和、安全保障(第8回~第12回) 国連安全保障理事会では、シリアのような特定の事態のみならず、「テーマ別会合」と呼ばれる一般的な議題も扱われます。そこで、今セメスター後半は、この「テーマ別会合」の一つである「女性、平和、安全保障」のシミュレーションを行ないました。第8回で議題概説を行ない、担当国を決定した後、第9回から第11回まで会議を行ないました。実際の国連安全保障理事会の構成国のうち、中国(現実世界では棄権)、フランス(賛成)、ロシア(棄権)、英国(賛成)、米国(賛成)の5つの常任理事国にドイツ(賛成)、インドネシア(賛成)を加えた7ヶ国を設定し、1ヶ国を2・3人で担当しました。多様な文化・宗教・利害を持つ国々の間でリプロダクティブヘルス/ライツや、安保理で人権問題を話し合うことの是非等をめぐって議論・交渉が繰り広げられましたが、現実世界とは異なり、全会一致で決議案が採択される結果となりました。 第12回では、シリア人道危機の際と同様、まず、このような会議の内容について、担当国の立場から振り返り、自国の利益をどの程度反映できたか、より適切な政策立案・議論・交渉等はなかったかを検討しました。そのうえで、個人の立場から会議を振り返り、国際社会全体の利益のために、どのような方法があり得る(た)のかを議論しました。2つのふりかえりを踏まえて、受講者は授業外でレポート2に取り組みました。 まとめー模擬国連から学んだこと(第13回) 各自が模擬国連から学んだことについてふりかえりました。また、来セメスター以降の模擬国連の授業をよりよくしていくための方法を検討しました。

4.受講者の感想

  • 西側と東側など、どうしても簡単な構図を思い描いてしまうが、実際はもっと多様な立場があり、一枚岩では無いことを学んだ。
  • 各国首脳の演説について今までは抽象的で曖昧な発言と思っていたが、リサーチをしてみると、その演説のなかにその国の方針や思惑が反映されていることを学んだ。
  • 全ての国が自国の利益を最大化しようとするとどうしても議論が平行線になってしまうことがあるということを学んだ。そのため、合意を形成するためにはお互いがボトムラインを基準に多少の妥協を行う必要があると感じた。
  • ただ国際関係や合意形成について学ぼうとするよりも、ある特定の国の大使の立場に立って会議に参加することで、より深くそれらを学ぶことができると感じたため学習効果はあると思う。Policy Paperも多様な価値観を意識しながら作成することができたので国際関係の理解に役立った。
  • ホワイトボードで行った振り返りに加えて会議後などの他国のPolicy Paperを参照できると、議題についての多面的な捉え方がより深まり学習効果がより大きかったかもしれない

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教養教育高度化機構 アクティブラーニング部門(担当:中村長史) dalt[at]kals.c.u-tokyo.ac.jp

「模擬国連で学ぶ国際関係と合意形成Ⅰ」(2022年度Sセメスター)

全学自由研究ゼミナール/高度教養特殊演習「模擬国連で学ぶ国際関係と合意形成Ⅰ」(2021年度Sセメスター)の授業の様子を紹介します。2019年度Aセメスターから毎期開講しており、今回が6期目の開講となりましたが、受講者は9名(1年生2名、2年生6名、3年生1名)でした。 担当教員:中村長史(総合文化研究科・教養学部附属教養教育高度化機構)

1.授業概要

国際社会で生じる問題は、自然現象ではなく社会現象である以上、一人一人の力によっ てわずかながらでも良くすることもできるし、さらに悪くしてしまうこともあります。本学の学生には、この点を意識し、自分の頭で国際問題の解決策を考えられるようになってほしいと考えています。 そこで、この授業では、「模擬国連(Model United Nations)」というアクティブラーニングの⼿法を⽤いて、国際問題の解決法を考えました。多様な利害・価値観に配慮することの重要性を理解するには体感してみることが早道ですが、模擬国連の会議では、⼀⼈⼀⼈が⽶国政府代表や中国政府代表などの担当国になりきって国際問題について話し合います。⽴場を固定されている点ではディベートと同様です。しかし、相⼿を論破することで勝利を⽬指すディベートと異なり、模擬国連会議では合意形成が⽬的であるため相⼿の利害・価値観を尊重したうえでの妥協が重要になります。この点を重視し、授業内では対⽴の激しい議題・担当国を設定して、 ロールプレイ・シミュレーションに取り組みました。

2.授業の目的・到達目標

目的 国際社会本講義で学んだ概念と事例を使いこなして、現在の世界における問題の構図や原因、解決法を自分の頭で考えられるようになる。 到達目標 ①国際問題の構造や原因を説明できる【レポート1,2で評価】 ②国際問題をめぐる多様な⽴場(利害・価値観)を説明できる【レポート1,2で評価】 ③国際問題の解決における妥協の重要性を説明できる【レポート1,2で評価】 ④国連の資料を⾃ら調べて国際問題の分析に⽤いることができる【レポート1,2で評価】 ⑤国際問題の解決策について、選択肢を複数挙げて⽐較衡量したうえで、妥当と考えられるものを説得的に示すことができる【レポート1,2で評価】

3.授業の流れ

ガイダンスー模擬国連から学べること(第1回) 模擬国連によって一般に学べること・学べないこと、そして、本授業の模擬国連から学べること・学べないことを確認しました。そして、学べないことについて補完する方法を検討するとともに、学べることを意識して一学期間過ごすことの重要性を再確認しました。 模擬国連会議:イラク戦争(第2回~第7回) 2003年3月のイラク戦争開戦直前の国連安全保障理事会のシミュレーションを行ないました。第2回で議題概説を行ない、担当国を決定した後、第3回から第6回まで会議を行ないました。実際の国連安全保障理事会の構成国のうち、中国(査察継続派)、フランス(査察継続派)、ロシア(査察継続派)、英国(即時開戦派)、米国(即時開戦派)の5つの常任理事国に「中間派」のチリを加えた6ヶ国を設定し、1ヶ国を1~2名で担当しました。現実の会議と異なり決議案が投票にかけられ、即時開戦を避けつつも、査察期限を明確に設け、その結果次第では武力行使への道が開かれる内容の決議案が採択される結果となりました。 第7回では、まず、このような会議の内容について、担当国の立場から振り返り、自国の利益をどの程度反映できたか、より適切な政策立案・議論・交渉等はなかったかを検討しました。そのうえで、個人の立場から会議を振り返り、国際社会全体の利益のために、どのような方法があり得る(た)のかを議論しました。2つのふりかえりを踏まえて、受講者は授業外でレポート1に取り組みました。TAを務めてくれた学生が前年度の受講者であったことから、前年度の模擬国連会議との比較といった観点から議論することもできました。 模擬国連会議:DPRKの核開発(第8回~第12回) 2017年9月のDPRK(朝鮮民主主義人民共和国)による6度目の核実験後の国連安全保障理事会のシミュレーションを行ないました。第8回で議題概説を行ない、担当国を決定した後、第9回から第11回まで会議を行ないました。実際の国連安全保障理事会の構成国のうち、中国(圧力強化消極派)、フランス(圧力強化積極派)、ロシア(消極派)、英国(積極派)、米国(積極派)の5つの常任理事国に日本(積極派)を加えた6ヶ国を設定し、1ヶ国を1~2名で担当しました。現実の会議と同様、経済制裁の強化を盛り込んだ決議案が採択される結果となりました。 第12回では、イラク戦争の際と同様、まず、このような会議の内容について、担当国の立場から振り返り、自国の利益をどの程度反映できたか、より適切な政策立案・議論・交渉等はなかったかを検討しました。そのうえで、個人の立場から会議を振り返り、国際社会全体の利益のために、どのような方法があり得る(た)のかを議論しました。2つのふりかえりを踏まえて、受講者は授業外でレポート2に取り組みました。 まとめー模擬国連から学んだこと(第13回) 各自が模擬国連から学んだことについて、①国際関係の知識・技能面、②合意形成の知識・技能面の両面からふりかえりました。教員からは、2000年代のイラク情勢が2010年代以降のDPRK情勢、ひいては大量破壊兵器全般をめぐる問題に、どのような影響を与えているかを問題提起し、受講者間の議論を促しました。また、来セメスター以降の模擬国連の授業をよりよくしていくための方法を検討しました。 授業スケジュール

4.受講者の感想

  • 議題についてはもちろんのこと、自分がその国の立場で意見を言わなくてはならないため、担当国について詳しく調べることに繋がった。
  • 私は自分自身国際情勢に興味のある方だと思っていたけれど、いざ模擬国連で議論するということとなると、知らないことが多いのだなということがわかりました。決議案や参考文献の精読を通じて学んだ知識や、実際の会議で学んだ合意形成の手法により、私の外交を見る目が養われたように感じます。また、国際関係論や国際法で学んだことをこの模擬国連の場で活かすことによって学びが深まったので、かなり学習効果があったと思います。
  • 非公式会合では使えなかったりする情報などもたくさんあったが、自分の知らない事実や事件などが自分で調べた中で知れた。また、実際に模擬国連をしている中で、様々な国が自国の利益を求めて、発言をしたり、交渉したりする様子を見て実際の国際関係の様子がつかめた気がした。
  • 英語で多くの資料を読む必要があり、授業準備は大変だった。また、会議中でも、自分の予想から外れた他国の発言や要求に対処して簡潔に返答することがとても難しかった。それでも、要求が通った時の達成感は大きく、国際関係や会議行動について多くのことを学べたので、授業はとても楽しかった。受講して良かったと思う。
  • 講義方式での学びと比べると頭に入る知識量は少ないとは思いますが、知識の定着度は圧倒的に高いと思います。実際に交渉に使うために自分で情報を探すことが多かったので、本を読むときにも普通に読むよりも頭に定着するように感じました。
  • 日々ニュースで見るような大国同士の対立が必ずしも安保理会議の舞台裏でそのまま作用しているわけではないことや国力がそのまま発言の重みとしてあらわれることが興味深かった。また、国連のHPで実際の決議案を見ることは初めてだったので、このような機会があってよかった。
  • 達成したいことの優先順位をつけ、場合によっては最優先事項を通すために他の事項を諦める手法は様々なことに応用できそうだと思った。また、決議案を書く中で、あえて通らなさそうな要求を先に提示することで譲歩の材料にすることの有効性も学べた。
  • いかに拒否権を使わせないラインまで妥協を引き出せるかが大事だと思った。自分側のボトムラインと同様に相手側のボトムラインについても考慮する必要がある。会議においては伝えたい要点が相手にしっかり伝わる話し方をする必要がある。早口になったり自分の知識をひけらかすような話し方では議論を進めるといった観点においては意味がないと思った。

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教養教育高度化機構 アクティブラーニング部門(担当:中村長史) kals[at]kals.c.u-tokyo.ac.jp

「模擬国連で学ぶ国際関係と合意形成Ⅱ」(2021年度Aセメスター)

全学自由研究ゼミナール/高度教養特殊演習「模擬国連で学ぶ国際関係と合意形成Ⅱ」(2021年度Aセメスター)の授業の様子を紹介します。2019年度Aセメスターから毎期開講しており、今回は5期目の開講となりましたが、受講者は8名(1年生2名、2年生5名、3年生1名)でした。 担当教員:中村長史(総合文化研究科・教養学部附属教養教育高度化機構) 担当TA:北村優成(法学部)

1.授業概要

国際社会で生じる問題は、自然現象ではなく社会現象である以上、一人一人の力によっ てわずかながらでも良くすることもできるし、さらに悪くしてしまうこともあります。本学の学生には、この点を意識し、自分の頭で国際問題の解決策を考えられるようになってほしいと考えています。 そこで、この授業では、「模擬国連(Model United Nations)」というアクティブラーニングの⼿法を⽤いて、国際問題の解決法を考えました。多様な利害・価値観に配慮することの重要性を理解するには体感してみることが早道ですが、模擬国連の会議では、⼀⼈⼀⼈が⽶国政府代表や中国政府代表などの担当国になりきって国際問題について話し合います。⽴場を固定されている点ではディベートと同様です。しかし、相⼿を論破することで勝利を⽬指すディベートと異なり、模擬国連会議では合意形成が⽬的であるため相⼿の利害・価値観を尊重したうえでの妥協が重要になります。この点を重視し、授業内では対⽴の激しい議題・担当国を設定して、 ロールプレイ・シミュレーションに取り組みました。

2.授業の目的・到達目標

目的 国際社会本講義で学んだ概念と事例を使いこなして、現在の世界における問題の構図や原因、解決法を自分の頭で考えられるようになる。 到達目標 ①国際問題の構造や原因を説明できる【レポート1,2で評価】 ②国際問題をめぐる多様な⽴場(利害・価値観)を説明できる【レポート1,2で評価】③国際問題の解決における妥協の重要性を説明できる【レポート1,2で評価】 ④国連の資料を⾃ら調べて国際問題の分析に⽤いることができる【レポート1,2で評価】 ⑤国際問題の解決策について、選択肢を複数挙げて⽐較衡量したうえで、妥当と考えられるものを説得的に示すことができる【レポート1,2で評価】

3.授業の流れ

授業スケジュール ガイダンスー模擬国連から学べること(第1回) 模擬国連によって一般に学べること・学べないこと、そして、本授業の模擬国連から学べること・学べないことを確認しました。そして、学べないことについて補完する方法を検討するとともに、学べることを意識して一学期間過ごすことの重要性を再確認しました。なお、今セメスターも、前セメスターに続き、全回ZOOMミーティングを用いたオンライン授業となりました。 模擬国連会議:シリア人道危機(第2回~第7回) 2010年代を通して続いているシリア人道危機についての国連安全保障理事会のシミュレーションを行ないました。第2回で議題概説を行ない、担当国を決定した後、第3回から第6回まで会議を行ないました。実際の国連安全保障理事会の構成国のうち、中国(シリア政府擁護派)、フランス(シリア政府批判派)、ロシア(シリア政府擁護派)、英国(シリア政府批判派)、米国(シリア政府批判派)の5つの常任理事国に「中間派」の南アフリカを加えた6ヶ国を設定し、1ヶ国を1・2人で担当しました。現実の会議と同様、拒否権が行使され、決議案は廃案となりました。 第7回では、まず、このような会議の内容について、担当国の立場から振り返り、自国の利益をどの程度反映できたか、より適切な政策立案・議論・交渉等はなかったかを検討しました。そのうえで、個人の立場から会議を振り返り、国際社会全体の利益のために、どのような方法があり得る(た)のかを議論しました。2つのふりかえりを踏まえて、受講者は授業外でレポート1に取り組みました。 なお、第6回には、冨田早紀氏(The Global Fund to Fight AIDS, Tuberculosis and Malaria; 元国際移住機関[IOM])がゲスト講師としてお越しくださり、会議を講評してくださるとともに、国連職員の役割について紹介してくださりました。 模擬国連会議:女性、平和、安全保障(第8回~第12回) 国連安全保障理事会では、シリアのような特定の事態のみならず、「テーマ別会合」と呼ばれる一般的な議題も扱われます。そこで、今セメスター後半は、この「テーマ別会合」の一つである「女性、平和、安全保障」のシミュレーションを行ないました。第8回で議題概説を行ない、担当国を決定した後、第9回から第11回まで会議を行ないました。実際の国連安全保障理事会の構成国のうち、中国(現実世界では棄権)、フランス(賛成)、ロシア(棄権)、英国(賛成)、米国(賛成)の5つの常任理事国にドイツ(賛成)、インドネシア(賛成)を加えた7ヶ国を設定し、1ヶ国を1・2人で担当しました。多様な文化・宗教・利害を持つ国々の間でリプロダクティブヘルス/ライツや、安保理で人権問題を話し合うことの是非等をめぐって議論・交渉が繰り広げられましたが、現実世界とは異なり、全会一致で決議案が採択される結果となりました。 第12回では、シリア人道危機の際と同様、まず、このような会議の内容について、担当国の立場から振り返り、自国の利益をどの程度反映できたか、より適切な政策立案・議論・交渉等はなかったかを検討しました。そのうえで、個人の立場から会議を振り返り、国際社会全体の利益のために、どのような方法があり得る(た)のかを議論しました。2つのふりかえりを踏まえて、受講者は授業外でレポート2に取り組みました。 まとめー模擬国連から学んだこと(第13回) 各自が模擬国連から学んだことについてふりかえりました。また、来セメスター以降の模擬国連の授業をよりよくしていくための方法を検討しました。

4.受講者の感想

  • 過去の議事録や決議案の中で表出される国家間の利害関係・外交関係や、行動の裏にある政治的意図の汲み取り方を学んだ。
  • 国際社会には多様な立場、考え方があり、そうした違いを埋めるのが大変であるということを知った。特に最初のシリア問題をめぐる議論では、各国の間に「埋められない溝」があるように感じ、利害調整をすることの難しさをひしひしと感じた。
  • 国連で革新的な決議を採択することの難しさを学び、どうして会議が進まないように見えてしまうのかがわかった。
  • 利害対立する国々同士で合意形成、妥協点を見出すことの難しさを実践的な経験として学ぶことができた。相手の立場を理解して交渉にあたることが重要だと感じた。
  • 同じ問題に対する他の国の意見を知ることができるため、なぜその問題が解決されないのか、なかなか議論が前に進まないのか、など問題の裏事情も含めて知ることができる。

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教養教育高度化機構 アクティブラーニング部門(担当:中村長史) kals[at]kals.c.u-tokyo.ac.jp

「模擬国連で学ぶ国際関係と合意形成Ⅰ」(2021年度Sセメスター)

全学自由研究ゼミナール/高度教養特殊演習「模擬国連で学ぶ国際関係と合意形成Ⅰ」(2021年度Sセメスター)の授業の様子を紹介します。2019年度Aセメスターから毎期開講しており、今回が4期目の開講となりましたが、受講者は6名(2年生3名、3年生1名、4年生2名)でした。 担当教員:中村長史(総合文化研究科・教養学部附属教養教育高度化機構) 担当TA:八尾佳凛(教養学部教養学科国際関係論コース)

1.授業概要

国際社会で生じる問題は、自然現象ではなく社会現象である以上、一人一人の力によっ てわずかながらでも良くすることもできるし、さらに悪くしてしまうこともあります。本学の学生には、この点を意識し、自分の頭で国際問題の解決策を考えられるようになってほしいと考えています。 そこで、この授業では、「模擬国連(Model United Nations)」というアクティブラーニングの⼿法を⽤いて、国際問題の解決法を考えました。多様な利害・価値観に配慮することの重要性を理解するには体感してみることが早道ですが、模擬国連の会議では、⼀⼈⼀⼈が⽶国政府代表や中国政府代表などの担当国になりきって国際問題について話し合います。⽴場を固定されている点ではディベートと同様です。しかし、相⼿を論破することで勝利を⽬指すディベートと異なり、模擬国連会議では合意形成が⽬的であるため相⼿の利害・価値観を尊重したうえでの妥協が重要になります。この点を重視し、授業内では対⽴の激しい議題・担当国を設定して、 ロールプレイ・シミュレーションに取り組みました。

2.授業の目的・到達目標

目的 国際社会本講義で学んだ概念と事例を使いこなして、現在の世界における問題の構図や原因、解決法を自分の頭で考えられるようになる。 到達目標 ①国際問題の構造や原因を説明できる【レポート1,2で評価】 ②国際問題をめぐる多様な⽴場(利害・価値観)を説明できる【レポート1,2で評価】 ③国際問題の解決における妥協の重要性を説明できる【レポート1,2で評価】 ④国連の資料を⾃ら調べて国際問題の分析に⽤いることができる【レポート1,2で評価】 ⑤国際問題の解決策について、選択肢を複数挙げて⽐較衡量したうえで、妥当と考えられるものを説得的に示すことができる【レポート1,2で評価】

3.授業の流れ

ガイダンスー模擬国連から学べること(第1回) 模擬国連によって一般に学べること・学べないこと、そして、本授業の模擬国連から学べること・学べないことを確認しました。そして、学べないことについて補完する方法を検討するとともに、学べることを意識して一学期間過ごすことの重要性を再確認しました。なお、今セメスターも、前々セメスター・前セメスターに続き、全回ZOOMミーティングを用いたオンライン授業となりました。 模擬国連会議:イラク戦争(第2回~第7回) 2003年3月のイラク戦争開戦直前の国連安全保障理事会のシミュレーションを行ないました。第2回で議題概説を行ない、担当国を決定した後、第3回から第6回まで会議を行ないました。実際の国連安全保障理事会の構成国のうち、中国(査察継続派)、フランス(査察継続派)、ロシア(査察継続派)、英国(即時開戦派)、米国(即時開戦派)の5つの常任理事国に「中間派」のチリを加えた6ヶ国を設定し、1ヶ国を1人で担当しました。現実の会議と異なり決議案が投票にかけられ、即時開戦を避けつつも、査察期限を明確に設け、その結果次第では武力行使への道が開かれる内容の決議案が採択される結果となりました。 第7回では、まず、このような会議の内容について、担当国の立場から振り返り、自国の利益をどの程度反映できたか、より適切な政策立案・議論・交渉等はなかったかを検討しました。そのうえで、個人の立場から会議を振り返り、国際社会全体の利益のために、どのような方法があり得る(た)のかを議論しました。2つのふりかえりを踏まえて、受講者は授業外でレポート1に取り組みました。TAを務めてくれた学生が前年度の受講者であったことから、前年度の模擬国連会議との比較といった観点から議論することもできました。 模擬国連会議:DPRKの核開発(第8回~第12回) 2017年9月のDPRK(朝鮮民主主義人民共和国)による6度目の核実験後の国連安全保障理事会のシミュレーションを行ないました。第8回で議題概説を行ない、担当国を決定した後、第9回から第11回まで会議を行ないました。実際の国連安全保障理事会の構成国のうち、中国(圧力強化消極派)、フランス(圧力強化積極派)、ロシア(消極派)、英国(積極派)、米国(積極派)の5つの常任理事国に日本(積極派)を加えた6ヶ国を設定し、1ヶ国を1人で担当しました。現実の会議と同様、経済制裁の強化を盛り込んだ決議案が採択される結果となりました。 第12回では、イラク戦争の際と同様、まず、このような会議の内容について、担当国の立場から振り返り、自国の利益をどの程度反映できたか、より適切な政策立案・議論・交渉等はなかったかを検討しました。そのうえで、個人の立場から会議を振り返り、国際社会全体の利益のために、どのような方法があり得る(た)のかを議論しました。2つのふりかえりを踏まえて、受講者は授業外でレポート2に取り組みました。 まとめー模擬国連から学んだこと(第13回) 各自が模擬国連から学んだことについて、①国際関係の知識・技能面、②合意形成の知識・技能面の両面からふりかえりました。教員からは、2000年代のイラク情勢が2010年代以降のDPRK情勢、ひいては大量破壊兵器全般をめぐる問題に、どのような影響を与えているかを問題提起し、受講者間の議論を促しました。また、来セメスター以降の模擬国連の授業をよりよくしていくための方法を検討しました。 授業スケジュール

4.受講者の感想

  • Policy Paperを準備する中で、公式会合の発言では出てこないようなより深い利害関係や、意図などをある程度汲み取ることができた。また、各国の態度は多いに国内情勢の影響・拘束を受けることがわかった。
  • 安心供与のような国際関係論の理論を使いつつ学べた。
  • 自国にとってはあまり重要性の高くない国・地域の課題について、安保理におけるプレゼンスや大国との関係性を維持しながら関わる必要があることを学んだ。
  • 五大国とそうでない国のどちらも経験したことで、国連安保理において様々な国がどういったモチベーションをもって臨んでいるのか少し体験できた。
  • 交渉の中ではしばしば妥協することが必要となる。ゆえに、これ以上は譲ってはいけないというボトムラインを設定し、それを会議中も明確に意識することが重要だと学んだ。
  • オンラインのため、対面での交渉に伴う緊張感のようなものを味わえなかった。言葉だけでなく、表情や仕草からも相手の意図を察知する経験が積めればなおよかった。
  • Policy Paperで問いがすでに立てられていて、またフローチャートみたいな形で授業が展開されていて、参加している身としても授業の流れが非常にわかりやすかったです。

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教養教育高度化機構 アクティブラーニング部門(担当:中村長史) kals[at]kals.c.u-tokyo.ac.jp

「模擬国連で学ぶ国際関係と合意形成Ⅱ」(2020年度Aセメスター)

全学自由研究ゼミナール/高度教養特殊演習「模擬国連で学ぶ国際関係と合意形成Ⅱ」(2020年度Aセメスター)の授業の様子を紹介します。2019年度Aセメスター、2020年度Sセメスターに続いて3期目の開講となりましたが、受講者は7名(2年生3名、3年生3名、4年生1名)でした。 担当教員:中村長史(総合文化研究科・教養学部附属教養教育高度化機構) 担当TA:九島佳織(総合文化研究科国際社会科学専攻国際関係論コース)

1.授業概要

国際社会で生じる問題は、自然現象ではなく社会現象である以上、一人一人の力によっ てわずかながらでも良くすることもできるし、さらに悪くしてしまうこともあります。本学の学生には、この点を意識し、自分の頭で国際問題の解決策を考えられるようになってほしいと考えています。 そこで、この授業では、「模擬国連(Model United Nations)」というアクティブラーニングの⼿法を⽤いて、国際問題の解決法を考えました。多様な利害・価値観に配慮することの重要性を理解するには体感してみることが早道ですが、模擬国連の会議では、⼀⼈⼀⼈が⽶国政府代表や中国政府代表などの担当国になりきって国際問題について話し合います。⽴場を固定されている点ではディベートと同様です。しかし、相⼿を論破することで勝利を⽬指すディベートと異なり、模擬国連会議では合意形成が⽬的であるため相⼿の利害・価値観を尊重したうえでの妥協が重要になります。この点を重視し、授業内では対⽴の激しい議題・担当国を設定して、 ロールプレイ・シミュレーションに取り組みました。

2.授業の目的・到達目標

目的 国際社会本講義で学んだ概念と事例を使いこなして、現在の世界における問題の構図や原因、解決法を自分の頭で考えられるようになる。 到達目標 ①国際問題の構造や原因を説明できる【レポート1,2で評価】 ②国際問題をめぐる多様な⽴場(利害・価値観)を説明できる【レポート1,2で評価】③国際問題の解決における妥協の重要性を説明できる【レポート1,2で評価】 ④国連の資料を⾃ら調べて国際問題の分析に⽤いることができる【レポート1,2で評価】 ⑤国際問題の解決策について、選択肢を複数挙げて⽐較衡量したうえで、妥当と考えられるものを説得的に示すことができる【レポート1,2で評価】

3.授業の流れ

授業スケジュール ガイダンスー模擬国連から学べること(第1回) 模擬国連によって一般に学べること・学べないこと、そして、本授業の模擬国連から学べること・学べないことを確認しました。そして、学べないことについて補完する方法を検討するとともに、学べることを意識して一学期間過ごすことの重要性を再確認しました。なお、今セメスターも、前セメスターに続き、全回ZOOMミーティングを用いたオンライン授業となりました。 模擬国連会議:シリア人道危機(第2回~第7回) 2010年代を通して続いているシリア人道危機についての国連安全保障理事会のシミュレーションを行ないました。第2回で議題概説を行ない、担当国を決定した後、第3回から第6回まで会議を行ないました。実際の国連安全保障理事会の構成国のうち、中国(シリア政府擁護派)、フランス(シリア政府批判派)、ロシア(シリア政府擁護派)、英国(シリア政府批判派)、米国(シリア政府批判派)の5つの常任理事国に「中間派」の南アフリカを加えた6ヶ国を設定し、1ヶ国を1・2人で担当しました。現実の会議と異なり、棄権はあったものの反対票が投じられることはなく、決議案が採択されることとなりました。 第8回では、まず、このような会議の内容について、担当国の立場から振り返り、自国の利益をどの程度反映できたか、より適切な政策立案・議論・交渉等はなかったかを検討しました。そのうえで、個人の立場から会議を振り返り、国際社会全体の利益のために、どのような方法があり得る(た)のかを議論しました。2つのふりかえりを踏まえて、受講者は授業外でレポート1に取り組みました。 模擬国連会議:女性、平和、安全保障(第8回~第12回) 国連安全保障理事会では、シリアのような特定の事態のみならず、「テーマ別会合」と呼ばれる一般的な議題も扱われます。そこで、今セメスター後半は、この「テーマ別会合」の一つである「女性、平和、安全保障」のシミュレーションを行ないました。第8回で議題概説を行ない、担当国を決定した後、第9回から第11回まで会議を行ないました。実際の国連安全保障理事会の構成国のうち、中国(現実世界では棄権)、フランス(賛成)、ロシア(棄権)、英国(賛成)、米国(賛成)の5つの常任理事国にインドネシア(賛成)、南アフリカ(賛成)を加えた7ヶ国を設定し、1ヶ国を1人で担当しました。多様な文化・宗教・利害を持つ国々の間でリプロダクティブヘルス/ライツや、安保理で人権問題を話し合うことの是非等をめぐって議論・交渉が繰り広げられましたが、現実世界とは異なり、全会一致で決議案が採択される結果となりました。 第12回では、シリア人道危機の際と同様、まず、このような会議の内容について、担当国の立場から振り返り、自国の利益をどの程度反映できたか、より適切な政策立案・議論・交渉等はなかったかを検討しました。そのうえで、個人の立場から会議を振り返り、国際社会全体の利益のために、どのような方法があり得る(た)のかを議論しました。2つのふりかえりを踏まえて、受講者は授業外でレポート2に取り組みました。 まとめー模擬国連から学んだこと(第13回) 各自が模擬国連から学んだことについてふりかえりました。また、来セメスター以降の模擬国連の授業をよりよくしていくための方法を検討しました。

4.受講者の感想

  • 非常任理事国の重要性及びその振る舞いの難しさを学びました。特にシリア問題の際に感じましたが、対立軸が明確な問題に関しては双方の陣営が非常任理事国を自陣に引き入れようと協調的な姿勢を見せるので、非常任理事国の立ち居振る舞いによっては両陣営間の橋渡しもできそうだと感じました。一方で対立軸が明確でない場合や、対立軸自体は明確であるものの両者が既に妥協の姿勢を見せている場合はどうしても常任理事国間での話し合いが中心となって、非常任理事国が存在感を発揮する機会は少なくなってしまい、その際にどう振舞うかは非常任理事国特有の難しさかな、と感じました。
  • 自分の担当国だけではなく他国についても調べないと、交渉材料がなく、議論を優位に進めることができないので、自然と勉強した。
  • 妥協点を探していくこと,また,どの部分を妥協して,どの部分を妥協しないかを考えるために,行動において優先順位が重要であることが学べた.また,合意形成が難しい場合においては他の機関,会議を使用することの重要性を感じた.
  • 本音と建前を自分自身の中で区別して確立すること、さらにそれを「誰に」「どちらを」「どこまで」見せるかという観点から効果的に使うことの重要性を学びました。
  • 国際社会の目を気にすることの重要性を学びました。今回の授業における模擬国連が外部に公表されることはありませんが、本来の国連の場では各国の主張が全て議事録や決議という形で国際社会に公表されます。公表されたデータは記録という形で後世にまで継承されることを思うと、自国の国益だけでなく、国際社会からの目というのも気にしつつ各国は発言する必要があるのだと改めて実感しました。
  • 「国際会議をオンラインで行うのは難しい…」という外交官の悩みを、部分的ではありますが経験できたように思います。今回できなかったが昨年度(対面)はできてよかったという点から見ると、「一緒にがんばりましょうね」といったさり気ない声かけや、誰と誰が今話しているのか、自分のいないグループからどんなワードが聞こえてくるのかを知ることは、会議行動を決定する上で重要な要素であったように感じます。

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教養教育高度化機構 アクティブラーニング部門(担当:中村長史) kals[at]kals.c.u-tokyo.ac.jp