「模擬国連で学ぶ国際関係と合意形成Ⅱ」(2022年度Aセメスター)

全学自由研究ゼミナール/高度教養特殊演習「模擬国連で学ぶ国際関係と合意形成Ⅱ」(2022年度Aセメスター)の授業の様子を紹介します。2019年度Aセメスターから毎期開講しており、今回は7期目の開講となりましたが、受講者は15名(1年生8名、2年生5名、3年生1名、4年生1名)でした。 担当教員:中村長史(総合文化研究科・教養学部附属教養教育高度化機構)

1.授業概要

国際社会で生じる問題は、自然現象ではなく社会現象である以上、一人一人の力によっ てわずかながらでも良くすることもできるし、さらに悪くしてしまうこともあります。本学の学生には、この点を意識し、自分の頭で国際問題の解決策を考えられるようになってほしいと考えています。 そこで、この授業では、「模擬国連(Model United Nations)」というアクティブラーニングの⼿法を⽤いて、国際問題の解決法を考えました。多様な利害・価値観に配慮することの重要性を理解するには体感してみることが早道ですが、模擬国連の会議では、⼀⼈⼀⼈が⽶国政府代表や中国政府代表などの担当国になりきって国際問題について話し合い、決議案の作成や投票を行ないます。⽴場を固定されている点ではディベートと同様です。しかし、相⼿を論破することで勝利を⽬指すディベートと異なり、模擬国連会議では合意形成が⽬的であるため相⼿の利害・価値観を尊重したうえでの妥協が重要になります。この点を重視し、授業内では対⽴の激しい議題・担当国を設定して、 ロールプレイ・シミュレーションに取り組みました。

2.授業の目的・到達目標

目的 国際社会本講義で学んだ概念と事例を使いこなして、現在の世界における問題の構図や原因、解決法を自分の頭で考えられるようになる。 到達目標 ①国際問題の構造や原因を説明できる【レポート1,2で評価】 ②国際問題をめぐる多様な⽴場(利害・価値観)を説明できる【レポート1,2で評価】 ③国際問題の解決における妥協の重要性を説明できる【レポート1,2で評価】 ④国連の資料を⾃ら調べて国際問題の分析に⽤いることができる【レポート1,2で評価】 ⑤国際問題の解決策について、選択肢を複数挙げて⽐較衡量したうえで、妥当と考えられるものを説得的に示すことができる【レポート1,2で評価】

3.授業の流れ

授業スケジュール ガイダンスー模擬国連から学べること(第1回) 模擬国連によって一般に学べること・学べないこと、そして、本授業の模擬国連から学べること・学べないことを確認しました。そして、学べないことについて補完する方法を検討するとともに、学べることを意識して一学期間過ごすことの重要性を再確認しました。なお、今セメスターも、前セメスターに続き、全回ZOOMミーティングを用いたオンライン授業となりました。 模擬国連会議:シリア人道危機(第2回~第7回) 2010年代を通して続いているシリア人道危機についての国連安全保障理事会のシミュレーションを行ないました。第2回で議題概説を行ない、担当国を決定した後、第3回から第6回まで会議を行ないました。実際の国連安全保障理事会の構成国のうち、中国(シリア政府擁護派)、フランス(シリア政府批判派)、ロシア(シリア政府擁護派)、英国(シリア政府批判派)、米国(シリア政府批判派)の5つの常任理事国に「中間派」の南アフリカを加えた6ヶ国を設定し、1ヶ国を2・3人で担当しました。現実の会議と同様、拒否権が行使され、決議案は廃案となりました。 第7回では、まず、このような会議の内容について、担当国の立場から振り返り、自国の利益をどの程度反映できたか、より適切な政策立案・議論・交渉等はなかったかを検討しました。そのうえで、個人の立場から会議を振り返り、国際社会全体の利益のために、どのような方法があり得る(た)のかを議論しました。2つのふりかえりを踏まえて、受講者は授業外でレポート1に取り組みました。 模擬国連会議:女性、平和、安全保障(第8回~第12回) 国連安全保障理事会では、シリアのような特定の事態のみならず、「テーマ別会合」と呼ばれる一般的な議題も扱われます。そこで、今セメスター後半は、この「テーマ別会合」の一つである「女性、平和、安全保障」のシミュレーションを行ないました。第8回で議題概説を行ない、担当国を決定した後、第9回から第11回まで会議を行ないました。実際の国連安全保障理事会の構成国のうち、中国(現実世界では棄権)、フランス(賛成)、ロシア(棄権)、英国(賛成)、米国(賛成)の5つの常任理事国にドイツ(賛成)、インドネシア(賛成)を加えた7ヶ国を設定し、1ヶ国を2・3人で担当しました。多様な文化・宗教・利害を持つ国々の間でリプロダクティブヘルス/ライツや、安保理で人権問題を話し合うことの是非等をめぐって議論・交渉が繰り広げられましたが、現実世界とは異なり、全会一致で決議案が採択される結果となりました。 第12回では、シリア人道危機の際と同様、まず、このような会議の内容について、担当国の立場から振り返り、自国の利益をどの程度反映できたか、より適切な政策立案・議論・交渉等はなかったかを検討しました。そのうえで、個人の立場から会議を振り返り、国際社会全体の利益のために、どのような方法があり得る(た)のかを議論しました。2つのふりかえりを踏まえて、受講者は授業外でレポート2に取り組みました。 まとめー模擬国連から学んだこと(第13回) 各自が模擬国連から学んだことについてふりかえりました。また、来セメスター以降の模擬国連の授業をよりよくしていくための方法を検討しました。

4.受講者の感想

  • 西側と東側など、どうしても簡単な構図を思い描いてしまうが、実際はもっと多様な立場があり、一枚岩では無いことを学んだ。
  • 各国首脳の演説について今までは抽象的で曖昧な発言と思っていたが、リサーチをしてみると、その演説のなかにその国の方針や思惑が反映されていることを学んだ。
  • 全ての国が自国の利益を最大化しようとするとどうしても議論が平行線になってしまうことがあるということを学んだ。そのため、合意を形成するためにはお互いがボトムラインを基準に多少の妥協を行う必要があると感じた。
  • ただ国際関係や合意形成について学ぼうとするよりも、ある特定の国の大使の立場に立って会議に参加することで、より深くそれらを学ぶことができると感じたため学習効果はあると思う。Policy Paperも多様な価値観を意識しながら作成することができたので国際関係の理解に役立った。
  • ホワイトボードで行った振り返りに加えて会議後などの他国のPolicy Paperを参照できると、議題についての多面的な捉え方がより深まり学習効果がより大きかったかもしれない

お問合せ先

教養教育高度化機構 アクティブラーニング部門(担当:中村長史) dalt[at]kals.c.u-tokyo.ac.jp

「国際紛争ケースブックをつくろう」(2022年度Aセメスター)

全学自由研究ゼミナール/高度教養特殊演習「国際紛争ケースブックをつくろう」(2022年度Aセメスター)の授業の様子を紹介します。2020年度以来開講しており今回が3度目の開講となりましたが、受講者は12名(1年生7名、2年生2名、3年生2名、4年生1名)でした。 担当教員:中村長史(総合文化研究科・教養学部附属教養教育高度化機構) 担当TA:八尾佳凛(教養学部教養学科国際関係論コース)

1.授業概要

国際社会で生じる問題は、自然現象ではなく社会現象である以上、一人一人の力によっ てわずかながらでも良くすることもできるし、さらに悪くしてしまうこともあります。本学の学生には、この点を意識し、自分の頭で国際問題の解決策を考えられるようになってほしいと考えています。 そこで、この授業では、複数の国際紛争の経緯や構図、原因等について調査し、最終的にケースブックを作成することを目指しました。その過程で、ある国際紛争に対する見方は決して一様ではないことに気づき、できる限り客観的に各紛争を捉えるための方法を習得することを期待しました。

2.授業の目的・到達目標

目的 本講義で学んだ国際紛争の経緯や構図、原因等に関する知識を使いこなして、国際紛争の発生や激化を防ぐ策を自分の頭で考えられるようになる。 到達目標 ①国際紛争に関する資料・文献を適切に収集できる【成果物で評価】 ②国際紛争の経緯を説明できる【成果物で評価】 ③国際紛争の構図を説明できる【成果物で評価】 ④国際紛争が発生・激化の原因を説明できる【成果物で評価】 ⑤国際紛争の発生・激化を防ぐ策について、選択肢を複数挙げて⽐較衡量したうえで、妥当と考えられるものを説得的に示すことができる【成果物で評価】

3.授業の流れ

授業スケジュール ガイダンスーケースブックづくりから学べること(第1回) 国際紛争に関するケースブックをクラス全体でつくることで学べることを考えました。担当する紛争の5W1H、すなわち主体(who)、争点(why)、時期区分(when)、民族・宗教・政治体制・経済状況(where)、当事者・第三者の行動(what&how)について正確に理解するために複数の文献・資料にあたって丁寧に情報収集をするのはもちろんのこと、他の紛争を担当するクラスメイトとの意見交換を通じて、紛争間の関係性や前例が後例に与える影響についても学べることを確認しました。 ケースブックの改訂(第2回~第6回) いきなりケースブックをゼロから作ることは難しいので、まずは練習として、昨年度までの受講生が作成したケースブックの改訂から始めることにしました。ソマリア、ルワンダ、ボスニア、アフガニスタンの4つの紛争を扱うグループに分かれ、グループ内・グループ間のディスカッション、教員・TAからのフィードバックを繰り返し、ケースブックの改訂を進めていきました。第6回では、グループごとに、その最終成果を報告しました。なお、第2回では、紛争の原因について、理論的な知見を学びました。 ケースブックの作成(第7回~第12回) 改訂作業で学んだことを踏まえて、ケースブックをゼロから作る段階へと入っていきました。イラク、東ティモール、シリア、ミャンマーの4つの紛争を扱う2・3人のグループに分かれ、グループ内・グループ間のディスカッション、教員・TAからのフィードバックを繰り返し、その最終成果を第12回で報告しました。改訂作業の段階に比べて、事例(紛争)間の関係にも目を向けるグループが多くなるなど、確かな成長が感じられました。なお、第7回では、紛争の防止策(平和政策)について、理論的な知見を学びました。 まとめーケースブックづくりから学んだこと(第13回) 各自がケースブックづくりから学んだことについてふりかえりました。また、来セメスター以降のケースブックの授業をよりよくしていくための方法を検討しました。

4.受講者の感想

  • 前後に起こった異なる紛争間の関係を学ぶことができて印象深かった。大局的な視点・細かい視点を両方持ち合わせてバランス感覚を持ってまとめることが重要だと感じた。個人的には時代背景であったり、前後の紛争とのつながりといった大きな視点でものを捉えるのが好きで、どちらかというと細かい点は見逃しがちであるため、自分の思考のくせを知ることができ大きな発見になったと思う。
  • 紛争を考えるとき、どんなに複雑な紛争を考える上でも、5W1Hに立ち返ることで整理することができることを学んだ。
  • 紛争の分析の手法(5W1H)を今後も活用できると感じました。
  • 担当した紛争について周囲の人に説明を行う上で具体例を挙げながら詳細に述べられるほど学べたので人生の経験としてためになった。
  • ミクロレベルから多面的に把握するために、今後は社会心理的な側面(憎悪の増長など)を勉強したい。

お問合せ先

教養教育高度化機構 アクティブラーニング部門(担当:中村長史) dalt[at]kals.c.u-tokyo.ac.jp