「模擬国連で学ぶ国際関係と合意形成Ⅱ」(2020年度Aセメスター)

全学自由研究ゼミナール/高度教養特殊演習「模擬国連で学ぶ国際関係と合意形成Ⅱ」(2020年度Aセメスター)の授業の様子を紹介します。2019年度Aセメスター、2020年度Sセメスターに続いて3期目の開講となりましたが、受講者は7名(2年生3名、3年生3名、4年生1名)でした。 担当教員:中村長史(総合文化研究科・教養学部附属教養教育高度化機構) 担当TA:九島佳織(総合文化研究科国際社会科学専攻国際関係論コース)

1.授業概要

国際社会で生じる問題は、自然現象ではなく社会現象である以上、一人一人の力によっ てわずかながらでも良くすることもできるし、さらに悪くしてしまうこともあります。本学の学生には、この点を意識し、自分の頭で国際問題の解決策を考えられるようになってほしいと考えています。 そこで、この授業では、「模擬国連(Model United Nations)」というアクティブラーニングの⼿法を⽤いて、国際問題の解決法を考えました。多様な利害・価値観に配慮することの重要性を理解するには体感してみることが早道ですが、模擬国連の会議では、⼀⼈⼀⼈が⽶国政府代表や中国政府代表などの担当国になりきって国際問題について話し合います。⽴場を固定されている点ではディベートと同様です。しかし、相⼿を論破することで勝利を⽬指すディベートと異なり、模擬国連会議では合意形成が⽬的であるため相⼿の利害・価値観を尊重したうえでの妥協が重要になります。この点を重視し、授業内では対⽴の激しい議題・担当国を設定して、 ロールプレイ・シミュレーションに取り組みました。

2.授業の目的・到達目標

目的 国際社会本講義で学んだ概念と事例を使いこなして、現在の世界における問題の構図や原因、解決法を自分の頭で考えられるようになる。 到達目標 ①国際問題の構造や原因を説明できる【レポート1,2で評価】 ②国際問題をめぐる多様な⽴場(利害・価値観)を説明できる【レポート1,2で評価】③国際問題の解決における妥協の重要性を説明できる【レポート1,2で評価】 ④国連の資料を⾃ら調べて国際問題の分析に⽤いることができる【レポート1,2で評価】 ⑤国際問題の解決策について、選択肢を複数挙げて⽐較衡量したうえで、妥当と考えられるものを説得的に示すことができる【レポート1,2で評価】

3.授業の流れ

授業スケジュール ガイダンスー模擬国連から学べること(第1回) 模擬国連によって一般に学べること・学べないこと、そして、本授業の模擬国連から学べること・学べないことを確認しました。そして、学べないことについて補完する方法を検討するとともに、学べることを意識して一学期間過ごすことの重要性を再確認しました。なお、今セメスターも、前セメスターに続き、全回ZOOMミーティングを用いたオンライン授業となりました。 模擬国連会議:シリア人道危機(第2回~第7回) 2010年代を通して続いているシリア人道危機についての国連安全保障理事会のシミュレーションを行ないました。第2回で議題概説を行ない、担当国を決定した後、第3回から第6回まで会議を行ないました。実際の国連安全保障理事会の構成国のうち、中国(シリア政府擁護派)、フランス(シリア政府批判派)、ロシア(シリア政府擁護派)、英国(シリア政府批判派)、米国(シリア政府批判派)の5つの常任理事国に「中間派」の南アフリカを加えた6ヶ国を設定し、1ヶ国を1・2人で担当しました。現実の会議と異なり、棄権はあったものの反対票が投じられることはなく、決議案が採択されることとなりました。 第8回では、まず、このような会議の内容について、担当国の立場から振り返り、自国の利益をどの程度反映できたか、より適切な政策立案・議論・交渉等はなかったかを検討しました。そのうえで、個人の立場から会議を振り返り、国際社会全体の利益のために、どのような方法があり得る(た)のかを議論しました。2つのふりかえりを踏まえて、受講者は授業外でレポート1に取り組みました。 模擬国連会議:女性、平和、安全保障(第8回~第12回) 国連安全保障理事会では、シリアのような特定の事態のみならず、「テーマ別会合」と呼ばれる一般的な議題も扱われます。そこで、今セメスター後半は、この「テーマ別会合」の一つである「女性、平和、安全保障」のシミュレーションを行ないました。第8回で議題概説を行ない、担当国を決定した後、第9回から第11回まで会議を行ないました。実際の国連安全保障理事会の構成国のうち、中国(現実世界では棄権)、フランス(賛成)、ロシア(棄権)、英国(賛成)、米国(賛成)の5つの常任理事国にインドネシア(賛成)、南アフリカ(賛成)を加えた7ヶ国を設定し、1ヶ国を1人で担当しました。多様な文化・宗教・利害を持つ国々の間でリプロダクティブヘルス/ライツや、安保理で人権問題を話し合うことの是非等をめぐって議論・交渉が繰り広げられましたが、現実世界とは異なり、全会一致で決議案が採択される結果となりました。 第12回では、シリア人道危機の際と同様、まず、このような会議の内容について、担当国の立場から振り返り、自国の利益をどの程度反映できたか、より適切な政策立案・議論・交渉等はなかったかを検討しました。そのうえで、個人の立場から会議を振り返り、国際社会全体の利益のために、どのような方法があり得る(た)のかを議論しました。2つのふりかえりを踏まえて、受講者は授業外でレポート2に取り組みました。 まとめー模擬国連から学んだこと(第13回) 各自が模擬国連から学んだことについてふりかえりました。また、来セメスター以降の模擬国連の授業をよりよくしていくための方法を検討しました。

4.受講者の感想

  • 非常任理事国の重要性及びその振る舞いの難しさを学びました。特にシリア問題の際に感じましたが、対立軸が明確な問題に関しては双方の陣営が非常任理事国を自陣に引き入れようと協調的な姿勢を見せるので、非常任理事国の立ち居振る舞いによっては両陣営間の橋渡しもできそうだと感じました。一方で対立軸が明確でない場合や、対立軸自体は明確であるものの両者が既に妥協の姿勢を見せている場合はどうしても常任理事国間での話し合いが中心となって、非常任理事国が存在感を発揮する機会は少なくなってしまい、その際にどう振舞うかは非常任理事国特有の難しさかな、と感じました。
  • 自分の担当国だけではなく他国についても調べないと、交渉材料がなく、議論を優位に進めることができないので、自然と勉強した。
  • 妥協点を探していくこと,また,どの部分を妥協して,どの部分を妥協しないかを考えるために,行動において優先順位が重要であることが学べた.また,合意形成が難しい場合においては他の機関,会議を使用することの重要性を感じた.
  • 本音と建前を自分自身の中で区別して確立すること、さらにそれを「誰に」「どちらを」「どこまで」見せるかという観点から効果的に使うことの重要性を学びました。
  • 国際社会の目を気にすることの重要性を学びました。今回の授業における模擬国連が外部に公表されることはありませんが、本来の国連の場では各国の主張が全て議事録や決議という形で国際社会に公表されます。公表されたデータは記録という形で後世にまで継承されることを思うと、自国の国益だけでなく、国際社会からの目というのも気にしつつ各国は発言する必要があるのだと改めて実感しました。
  • 「国際会議をオンラインで行うのは難しい…」という外交官の悩みを、部分的ではありますが経験できたように思います。今回できなかったが昨年度(対面)はできてよかったという点から見ると、「一緒にがんばりましょうね」といったさり気ない声かけや、誰と誰が今話しているのか、自分のいないグループからどんなワードが聞こえてくるのかを知ることは、会議行動を決定する上で重要な要素であったように感じます。

お問合せ先

教養教育高度化機構 アクティブラーニング部門(担当:中村長史) kals[at]kals.c.u-tokyo.ac.jp

「国際紛争ケースブックをつくろう」(2020年度Aセメスター)

全学自由研究ゼミナール/高度教養特殊演習「国際紛争ケースブックをつくろう」(2020年度Aセメスター)の授業の様子を紹介します。今セメスターが初めての開講となりましたが、受講者は11名(1年生1名、2年生3名、3年生4名、4年生2名、修士1年生1名)でした。全回オンライン授業(ZOOMミーティングを利用)となりました。 担当教員:中村長史(総合文化研究科・教養学部附属教養教育高度化機構) 担当TA:由地莉子(教養学部教養学科国際関係論コース)

1.授業概要

国際社会で生じる問題は、自然現象ではなく社会現象である以上、一人一人の力によっ てわずかながらでも良くすることもできるし、さらに悪くしてしまうこともあります。本学の学生には、この点を意識し、自分の頭で国際問題の解決策を考えられるようになってほしいと考えています。 そこで、この授業では、複数の国際紛争の経緯や構図、原因等について調査し、最終的にケースブックを作成することを目指しました。その過程で、ある国際紛争に対する見方は決して一様ではないことに気づき、できる限り客観的に各紛争を捉えるための方法を習得することを期待しました。

2.授業の目的・到達目標

目的 本講義で学んだ国際紛争の経緯や構図、原因等に関する知識を使いこなして、国際紛争の発生や激化を防ぐ策を自分の頭で考えられるようになる。 到達目標 ①国際紛争に関する資料・文献を適切に収集できる【成果物で評価】 ②国際紛争の経緯を説明できる【成果物で評価】 ③国際紛争の構図を説明できる【成果物で評価】 ④国際紛争が発生・激化の原因を説明できる【成果物で評価】 ⑤国際紛争の発生・激化を防ぐ策について、選択肢を複数挙げて⽐較衡量したうえで、妥当と考えられるものを説得的に示すことができる【成果物で評価】

3.授業の流れ

授業スケジュール ガイダンスーケースブックづくりから学べること(第1回) 国際紛争に関するケースブックをクラス全体でつくることで学べることを考えました。担当する紛争の5W1H、すなわち主体(who)、争点(why)、時期区分(when)、民族・宗教・政治体制・経済状況(where)、当事者・第三者の行動(what&how)について正確に理解するために複数の文献・資料にあたって丁寧に情報収集をするのはもちろんのこと、他の紛争を担当するクラスメイトとの意見交換を通じて、紛争間の関係性や前例が後例に与える影響についても学べることを確認しました。 ケースブックの改訂(第2回~第7回) いきなりケースブックをゼロから作ることは難しいので、まずは練習として、教員の方で概略のみを記したものを作り、その改訂から始めることにしました(今年度が初めての開講のため、教員の方で「たたき台」を準備したわけですが、次年度以降は、前年度までの授業で作成されたものを改訂していくことを予定しています)。ソマリア、ルワンダ、ボスニア、アフガニスタン、リビアの5つの紛争を扱う2・3人のグループに分かれ、グループ内・グループ間のディスカッション、教員・TAからのフィードバックを繰り返し、ケースブックの改訂を進めていきました。第7回では、グループごとに、その最終成果を報告しました。 なお、第3回には、国際連合政務・平和構築局 政務官の高橋尚子氏がゲスト講師としてお越しくださり、国連事務局における紛争の分析方法について紹介してくださいました。国連に研究・キャリア上の関心を有する学生が多くいることもあり、画面越しとはなりましたが、活発な質疑応答がなされました。 ケースブックの新規作成(第8回~第12回) 改訂作業で学んだことを踏まえて、ケースブックをゼロから作る段階へと入っていきました。コソボ、イラク、シリア、イエメンの4つの紛争を扱う2・3人のグループに分かれ、グループ内・グループ間のディスカッション、教員・TAからのフィードバックを繰り返し、その最終成果を第12回で報告しました。改訂作業の段階に比べて、事例(紛争)間の関係にも目を向けるグループが多くなるなど、確かな成長が感じられました。 まとめーケースブックづくりから学んだこと(第13回) 各自がケースブックづくりから学んだことについてふりかえりました。また、来セメスター以降のケースブックの授業をよりよくしていくための方法を検討しました。

4.受講者の感想

  • 紛争の記述というのは、あらゆる点において政治性を伴うものだということを痛感しました。犠牲者数、取り上げるアクターの扱い(主体とするか、介入主体とするか等)などに関しても、書き手の価値観が図らずも反映されることは否めないように思います。したがって、報道のみならず学術論文などから情報を得る際にも常に上記の点に留意しながら分析を心掛けたいと考えています。
  • 前史・社会構造が紛争発生の素地を作っている場合が多いことや、紛争を始めるのは簡単だが終わらせるのは困難なことを学んだ。
  • 他者が読むことを想定している点では論文と似ているものの、一読して紛争構図が掴めるように要点に絞って記述する作業はむしろかなりの労力を要しますが、だからこそ情報収集及び取捨選択の方法に関しては一定のスキルが身についたように感じます。また、他班のケースブックとの関連を意識することにより、自ずと自分が記述している紛争へのアナロジーを見出したり、前例の後例への影響を発見したりすることができたため大きな学習効果があったと思います。
  • 一つのケースブックを作るのに時間がかかる分複数の紛争について調べることは難しいですが、この授業のように複数グループでお互いに学び合うことでその欠点もカバーできると思いました。
  • 一人で学ぶよりもはるかに作業効率や吸収が良かったと感じます。誰かとお互い助け合ってチェックし合いながら一つの紛争について学んでいくことで、自分では気づかなかった論点や情報までカバーできました。ただ受け身で情報を得るのではなく自分たちで整理してケースブックを作るという経験は、紛争理解にはかなり効果的なのではないかと感じました。

お問合せ先

教養教育高度化機構 アクティブラーニング部門(担当:中村長史) kals[at]kals.c.u-tokyo.ac.jp

「働きがいやジェンダーを考える」(2020年度Aセメスター 第12回)

全学自由研究ゼミナール及び高度教養特殊演習「働きがいやジェンダーを考える」のTAによる感想です。

授業の概要

アクティブラーニング部門開講授業「働きがいやジェンダーを考える」(担当教員:伊勢坊綾)では、学生の興味関心に基づき、働きがい、働く上でのジェンダーの問題に関する論文や文献を輪読し、ディスカッションを行っています。

ゲスト講師の紹介

第12回のゲストは、お茶の水女子大学/日本学術振興会・特別研究員(RPD)の小原優貴先生です。小原先生の専門は、比較教育学です。途上国・新興国のNGOや起業家が主導する教育活動に関心をもち、インドをフィールドに、各アクター(政府、教育機関、NGO・起業家等)が果たす役割やそれらの相互関係について研究されています。2020年9月まで、アクティブラーニング部門の特任准教授としてご勤務されていらっしゃいました。

文献紹介

今回の授業で輪読した論文は、以下です。 篠原さやか(2020)「女性研究者のキャリア形成とワーク・ライフ・バランス」,『日本労働研究雑誌』,62(9), pp.4-17. 上記論文は、日本における⼥性研究者数および研究者に占める⼥性の割合が低⽔準で、特に⾃然科学分野では、⼥性が研究職としてのキャリアから徐々に退出する傾向があることを指摘しています。その理由として、ジェンダー・バイアスに起因する⾃信の⽋如やロールモデルの不⾜のみならず、ワーク・ライフ・バランスにおける課題を挙げながら、女性研究者のキャリア形成の困難さを描いています。

小原先生のキャリア形成・質疑応答

小原先生からは、キャリア形成の中で自分が注力することがどのように変化したか、研究・教育・学務という大学教員の仕事と家庭での役割を両立するために具体的にどのような行動をとったか、RPDを希望した理由等についてお話いただきました。 小原先生からお話を伺った後、受講した学生さんたちから質問が寄せられました。たとえば、以下のような質問がありました。 ●民間企業を離れてアカデミックの分野に戻ろうと思った理由 ●ストレートで研究者になる/社会人を経て研究者になる場合の、就職への影響の違い ●RPDの研究奨励費や研究費、3年という期間はキャリアへの円満な復帰やワーク・ライフ・バランスに十分だと思うか? ●アカデミックな職場では、(もともと志す女性の割合が低いとはいえ、)ジェンダー問題に興味や知識がある人が多く、育休産休がとりやすいのではというイメージ(希望?)があるが、実際のところどうなのか 小原先生からは、「ライフコースのどの時点でも常にワーク・ライフ・バランスが取れている状況にあるというのは理想であり、現実的にはなかなか難しい。その都度、取り組んできたことを後々振り返った時に、長い目で見るとそれなりにバランスをとってきたな、と自分で納得がいけばそれで良いのではないかと思っている」とのお考えをお示しいただき、ワーク・ライフ・バランスの実現を、柔軟に考える視点に気づかせていただきました。

感想

TAとして授業を見させていただき、学生さんたちが研究者のキャリアという専門的なテーマに関心を示し、積極的に質問をされていることに驚きました。学部生の頃の私は、恥ずかしながらRPDの制度の存在を知りませんでしたが、ワーク・ライフ・バランスにやさしい制度が多くの人に知られるようになっていることは歓迎すべき傾向と感じております。 また、私はゲストの小原先生がKALSに勤務されていた頃に、研究、教育、育児などにお忙しくされている姿を見て、漠然と、大変そうだなと思っていましたが、授業では、先生が、具体的にどのような工夫をされ、ワーク・ライフ・バランスを実現しようとされているのかがわかり、その姿勢に感銘を受けました。 (KALS TA 総合文化研究科博士課程 宮川慎司