「大学教育を変える学びのフィールドワーク」を受講して

全学自由研究ゼミナール 「大学教育を変える学びのフィールドワーク」を受講して

以下は、全学自由研究ゼミナール「大学教育を変える学びのフィールドワーク」の受講生による感想です。授業の概要はこちらをご覧ください。

多面的な「教育」への理解(文科一類1 凌慎)

この授業は私が今まで受けてきた講義型の授業とは全く異なり、ディスカッションや発表を多く取り入れた生徒と先生の双方向的な授業で、「教育」という同じ興味・関心を持った学生・先生とこれからの教育について考える良い機会となりました。この授業では様々なことに取り組みましたが、その中で特に印象深かった活動は、東京学芸大学附属国際中等教育学校でのフィールドワークです。

私は日本の英語教育に関心があり、「なぜ日本人は英語が話せない人が多いのか」と日頃から考えていました。日本人に英語が話せない人が多い理由として、日本語と英語の非類似性や「島国」という閉鎖的な風土も考えられるとは思っていましたが、やはり日本の英語教育にも問題があると考えたのです。そのため、国際バカロレアに準拠したカリキュラムを組んでおり、また、SGH(Super Global High school)にも指定されている東京学芸大学附属国際中等教育学校(TGUISS)の先進的な英語教育を見て、日本の一般的な英語教育と何が違うのか考えてみようと思いました。TGUISSではICレコーダーを使ったスピーチの記録やアカデミックな内容に関する活発なディスカッション・プレゼン、ルーブリックを用いた基準が明確な評価など、これからの英語教育に活かせる点が多数ありました。

また、事前・事後の活動として依頼文の執筆や成果発表のプレゼンテーションをしたことで、メールの文面のマナーやスライド作成・人前で発表するときの技術など、社会に出る上で必要となるスキルも身につけることができました。加えて、フィールドワーク以外の授業では「FD(Faculty Development)」や「認知能力・非認知能力」といった基本的な用語や世界各国の教育事情を講義や文献、フィンランドの学生との遠隔インタビューを通して知ることで、「教育」という1つの事象を様々な角度から捉えることもできるようになったと思います。

この授業を受けて自分が「教育」という事象を一面的に見がちだったことに気づいたので、これからはこの授業で学んだことを活かしつつ、様々な文献を読み、自分からフィールドワークやその他団体の活動に積極的に参加していきたいです。

「学力観」を問い直す(理科二類1 小林 芽生)

授業では、今まで受けて来た教育を振り返り問題意識を明らかにした上で、学びの場にフィールドワークへ行きました。フィールドでは、学びの様子を見学したり、講師の先生や保護者の方から直接お話をお聞きしたりと、生で見ることでしかわからない具体的な情報を得ることができます。授業の構成、先生と生徒の関係、新しいことを学んでいく生徒たちの様子などを理解するため、客観的な視点を保つことを心がけながら見学・インタビューをしてきました。

自分にとって最も大きな変化は、「学力観」について考えるようになったことです。教育の改善を考える時に、教育環境や方法よりも先に、まずはその理念となる学力観自体を定義する必要がありました。私が達した結論は、学力=学ぶ力。物事を学ぼうとする力と、学びたい物事を身につけられる力を合わせたものが学力と定義できるのではないか、ということです。今まで些細な違和感とともに無意識に抱いていた「学力は点数化される」という考え方とは大きく異なるものでした。

大学教育を改革するという視点で学びをまとめる過程で、自分が無意識に抱いていた学力観が、現在志向されているものではない、少なくとも自らが志向したいものでないことがわかりました。フィールドワーク先の教室の様子から、色々な学びの形があるということを知り、さらにインタビューの内容も踏まえて、その根本となっている学習者自身のモチベーションの影響の大きさを認識したことにより得られた結論でした。

授業で得られたことは、何よりもまず、自分が新しいことを学ぶ時に役立つと思います。学力観の認識が変わるだけで、いつも受けている授業に対する自分の意識が大きく変わりました。学習者自身の気持ちの持ち方が学びに与える影響を身をもって実感しています。

大学での学びと大学の枠を越えた学び(文科三類1 湯生 晴子)

私は「大学教育を変える学びのフィールドワーク」を通して、二つの大きなものを得ました。一つ目は、自分が受けている授業を客観的に評価する能力です。「いい授業」とは何かを考えるなかで、受講している科目の授業設計に注目するようになり、それまでは気づかなかった工夫に目が向くようになりました。例えば、同じ議題でも学生間のディスカッションが活発になるような提示の仕方をしたり、インタラクティブな授業をするのが難しいと言われる大規模な教室でもグループワークを通して学生の視点をとりいれたり、105分間学生の集中力を保つために講義の途中にビデオをはさんだり。深く考えずに受けていた授業のなかにさまざまな工夫を見出すことが出来るようになり、それまでは苦手だった授業を受ける態度がより積極的なものになりました。

また、教育の枠を超えた気づきもありました。授業の一環で行ったフィールドワークや、Skypeでのインタビューなどを通して、多くの人と出会いました。フィンランドの大学生、他大学の教授、会社を辞めて新しい学習観にもとづく塾を起業した方、そこに通う生徒、その生徒の保護者。彼らと真剣に話すなかで、今まで知らなかった生き方に触れることができました。大学を出て、就活して、どこかの大手企業に雇ってもらい、定年まで働き続けるという道以外にも多くの選択肢があること、学生という身分でなくなっても学びつづけ、進化しつづけられること。そのことに勇気付けられ、自分の未来をより大きなスケールで考えられるようになりました。

全学自由研究ゼミナール「大学教育を変える学びのフィールドワーク」の概要はこちらをご覧ください。

2015年11月12日開催 アクティブラーニング・セミナー

2015年11月12日開催 アクティブラーニング・セミナー

2015年11月12日開催 アクティブラーニング・セミナー Active Learning Seminar
アクティブラーニング部門では、教育方法と関係のある内容のセミナーを開催しています。ここでは、2015年11月12日(木)に行われたセミナー「産学連携型プロジェクト学習によるリーダーシップ教育の実践: 立教大学ビジネス・リーダーシップ・プログラムの事例から」について報告いたします。立教大学ビジネス・リーダーシップ・プログラム(BLP)を運営されている立教大学経営学部の舘野泰一先生を講師としてお招きしてお話しいただきました(図2)。また、実際に BLP を受講し、BLPの学生アシスタント(SA)として活動されている経営学部2年牛込公美子さんと安藤沙紀さんにもお越しいただきました。 また、本セミナーは、本部門が実施している全学自由研究ゼミナール「アクティブラーニングで未来の学びを考える」の授業も兼ねており、当日は、受講生である学生が6名、希望された教員5名が参加してくださいました。
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セミナーの構成

本セミナーでは、まず BLP と BLP において重要になるリーダーシップに関するレクチャーがあり、その次に BLP の一部をミニ体験しました。そして、再度 BLP のデザインに関するレクチャーがあり、最後にセミナーを振り返るためのディスカッションが設けられました。

BLPの概要

BLP は立教大学経営学部経営学科の1年生の春学期から3年生の春学期まで、5学期2年半をかけて行われるプログラムであり、立教大学に経営学部が設置された2006年から開始されました。「権限がなくても発揮できるリーダーシップの涵養」を目指しており、自ら目標設定をして、自らすすんで前に立ち、さらに同僚を支援する学生を育むことを教育目標としています。アクティブラーニングを取り入れた授業設計で、産学連携のプロジェクトを実行する授業とスキルを強化する授業で構成されています。1年生は春学期に「リーダーシップ入門(BL0)」の受講を通して課題解決のプロジェクトを行い、秋学期には BL1 で論理的思考力を養うため、ライティングスキルを強化します。2年生の春学期にはプロジェクト型授業、秋学期にはスキル強化型授業、3年生の春学期にはプロジェクト型授業と、2年半をかけて、プロジェクトの実行とスキルの強化を交互に行うプログラムになっています。 その成果は高く評価されており、文部科学省の質の高い大学教育推進プログラム(教育GP)では「特に優れており波及効果が見込まれる取組」に認定され、教育再生実行会議の第7次提言では大学のアクティブラーニングの先行事例としてただ1つ紹介されました。

授業「リーダーシップ入門(BL0)」

本セミナーでは、特に重要な1年生の春学期に行われる「リーダーシップ入門(BL0)」について説明されました。BL0は立教大学経営学部の1年生約400名が受講する授業で、1クラス約20名、全18クラスで行われます。 BL0 の受講を通して、学生が実際にプロジェクトを行うという経験することで、他の授業で学ぶ専門知識の必要性を知ってもらうことが期待されています。授業内容は、学生がビジネスにおける課題に対してグループで取り組むというもので、実際の企業と連携して課題設定が行われ、最終的には選ばれた学生のグループが企業の方々の前でプレゼンテーションを行います。授業を通して、学生たちはそれぞれのリーダーシップを発揮する必要があり、リーダーシップの教育が重要になってきます。

リーダーシップと BL0 の設計

リーダーシップと聞くと、明確なビジョンを打ち出して、全員を強く引っ張るリーダーが発揮するものというイメージがありますが、それだけがリーダーシップではありません。正式に任命されたリーダー以外のメンバーが誰でも発揮できるリーダーシップもあります。そこで、200ほどリーダーシップの定義がある中、BLP では最小限身に付けるべきリーダーシップを「目標設定・共有」「率先垂範」「同僚支援」の3要素に絞り込みました。つまり、BLPは、明確な成果目標を設定および共有し、率先して模範となる行動をとり、同僚が動きやすいように働きかけるリーダーシップを身につけるよう設計および実施されています。 そのようなリーダーシップを身に付けるため、経験と振り返りの両輪をまわす授業構造になっています。構造は「目標設定」「経験」「ふりかえり」の3要素から成り立っています(図3)。目標設定では、リーダーシップをどのように発揮するかといったリーダーシップ目標の設定を行います。そして、経験では、リーダーシップが必要になるビジネスプランを提案するプロジェクトを実際に体験します。そして、ふりかえりでは、学生が相互にリーダーシップ行動に対してフィードバックし、そのフィードバックを元に目標を振り返り、次の行動計画を立てます。このように、目標を立てて、経験し、体験して、そのまま終わるのではなく、そこからさらに振り返り、それを次につなげる構造となっています。次にご紹介する BLP ミニ体験も同様の構造となっていました。
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BLP ミニ体験

BLP の説明後、セミナー参加者も BLP をミニ体験できる時間がありました。課題は「訪日外国人旅行者によってあなたの地元が活性化する新たな仕組みを提案せよ!」というビジネスプランを3人1グループで考えて提案するものでした。グループメンバーの出身地から地元を1つ決定し、海外の国を1つ決め、その国の人々を地元に呼び寄せるビジネスプランを考える課題でした。 課題に取り組む構成も、BLPと同様になっており、まずはグループメンバーが各自リーダーシップ目標を決め、共有しました。その後、実際にビジネスプランの作成にグループで取りくみ、全体で発表しました。そして、グループ内でメンバーがリーダーシップ目標に対して相互にフィードバックしました。以下、詳細について説明します。 まず、参加者はそれぞれグループワークにどのような貢献をするか、具体的なリーダーシップの行動に関する目標を設定し、共有しました。「話がそれないように良い感じに話をまとめたいな」といったラフな目標や「積極的なアイディア出しと議論の促進をします」といった目標が挙げられ、グループ内で共有されていました。 そして、各グループは、活性化する地元と対象となる外国を決め、ビジネスプランを作成しました。例えば、千葉県とインド、東京都とアメリカ、下北沢とアメリカといったように、色々な組み合わせが生まれ、それぞれの地元や国の特徴を活かしたビジネスプランが作られました。 発表では、全体に対して各グループがビジネスプランを共有し、投票が行われ、3つのグループが同率1位になりました。アメリカの若者を対象に神社でファッションショーを行う「下北インターナショナルファッションコレクション」がその1つで、他も特色豊かなビジネスプランでした。 そして、最後に、グループ内で、グループワークでのそれぞれの行動を思い出し、元々共有したリーダーシップ目標が達成できているかを振り返りました。例えば、議論を促進するという目標を共有していたメンバーには、「途中で意思決定して、議論を次の段階に進めてくれたのが良かった」といったフィードバックがありました。

ディスカッション

BLP のミニ体験を経て、参加者はそれぞれのグループで、このセミナー全体を振り返りました。各グループには、セミナーの講師か BLP の SA が入り、実際の BLP の様子や運営に関する質疑応答なども行われていました。ある学生は「(立教大学には)このようなプログラムがあって羨ましい。東大にはないのか?」と BLP の価値を高く評価し、本学にもこのようなプログラムを導入してほしいと話していました。

受講者によるアンケート

学生からは「参加者全員にリーダーシップを身に付けてもらうという考え方が印象的でした。様々な場面で努力が認められることで、自分にはリーダーが向かないと思っている学生も徐々に自信を付けられるのだなと思いました。」といったコメントがあり、全体的に肯定的な感想でした。 また、教員からは「SAの方の話が聞けたことがとても良かったです。SA を体験することまでセットで、学びが深まるという部分の大きさを再認識しました。」や「リーダーシップ教育とアクティブラーニングの重要性を再認識しました。楽しい、また参加したいです。」といった SA、リーダーシップ、アクティブラーニングの重要性に関するコメントがあり、全員が肯定的な感想でした。

筆者の感想

レクチャーと体験が絶妙にブレンドされたセミナーになっており、参加者も非常に満足していましたし、見学していた私も非常に楽しませてもらいました。リーダーシップを学ぶ上で、体験と振り返りが重要だということが強く印象に残っています。BLP のミニ体験でも、体験(ビジネスプラン作成)と振り返り、という構成がとられていたのに加えて、セミナー自体も、BLP のミニ体験と振り返り(ディスカッション)、という構成がとられており、非常に一貫性の高いセミナー構成だと感じました。体験と振り返りが大事だと単に伝えるだけでなく、受講者が実際にセミナーおよび BLP のミニ体験で体験と振り返りを実践できる素晴らしいセミナーでした。有意義なセミナーを行ってくださった舘野先生、SA の牛込さんと安藤さん、誠にありがとうございました。(吉田)