「働きがいやジェンダーを考える」(2020年度Aセメスター 第12回)

全学自由研究ゼミナール及び高度教養特殊演習「働きがいやジェンダーを考える」のTAによる感想です。

授業の概要

アクティブラーニング部門開講授業「働きがいやジェンダーを考える」(担当教員:伊勢坊綾)では、学生の興味関心に基づき、働きがい、働く上でのジェンダーの問題に関する論文や文献を輪読し、ディスカッションを行っています。

ゲスト講師の紹介

第12回のゲストは、お茶の水女子大学/日本学術振興会・特別研究員(RPD)の小原優貴先生です。小原先生の専門は、比較教育学です。途上国・新興国のNGOや起業家が主導する教育活動に関心をもち、インドをフィールドに、各アクター(政府、教育機関、NGO・起業家等)が果たす役割やそれらの相互関係について研究されています。2020年9月まで、アクティブラーニング部門の特任准教授としてご勤務されていらっしゃいました。

文献紹介

今回の授業で輪読した論文は、以下です。 篠原さやか(2020)「女性研究者のキャリア形成とワーク・ライフ・バランス」,『日本労働研究雑誌』,62(9), pp.4-17. 上記論文は、日本における⼥性研究者数および研究者に占める⼥性の割合が低⽔準で、特に⾃然科学分野では、⼥性が研究職としてのキャリアから徐々に退出する傾向があることを指摘しています。その理由として、ジェンダー・バイアスに起因する⾃信の⽋如やロールモデルの不⾜のみならず、ワーク・ライフ・バランスにおける課題を挙げながら、女性研究者のキャリア形成の困難さを描いています。

小原先生のキャリア形成・質疑応答

小原先生からは、キャリア形成の中で自分が注力することがどのように変化したか、研究・教育・学務という大学教員の仕事と家庭での役割を両立するために具体的にどのような行動をとったか、RPDを希望した理由等についてお話いただきました。 小原先生からお話を伺った後、受講した学生さんたちから質問が寄せられました。たとえば、以下のような質問がありました。 ●民間企業を離れてアカデミックの分野に戻ろうと思った理由 ●ストレートで研究者になる/社会人を経て研究者になる場合の、就職への影響の違い ●RPDの研究奨励費や研究費、3年という期間はキャリアへの円満な復帰やワーク・ライフ・バランスに十分だと思うか? ●アカデミックな職場では、(もともと志す女性の割合が低いとはいえ、)ジェンダー問題に興味や知識がある人が多く、育休産休がとりやすいのではというイメージ(希望?)があるが、実際のところどうなのか 小原先生からは、「ライフコースのどの時点でも常にワーク・ライフ・バランスが取れている状況にあるというのは理想であり、現実的にはなかなか難しい。その都度、取り組んできたことを後々振り返った時に、長い目で見るとそれなりにバランスをとってきたな、と自分で納得がいけばそれで良いのではないかと思っている」とのお考えをお示しいただき、ワーク・ライフ・バランスの実現を、柔軟に考える視点に気づかせていただきました。

感想

TAとして授業を見させていただき、学生さんたちが研究者のキャリアという専門的なテーマに関心を示し、積極的に質問をされていることに驚きました。学部生の頃の私は、恥ずかしながらRPDの制度の存在を知りませんでしたが、ワーク・ライフ・バランスにやさしい制度が多くの人に知られるようになっていることは歓迎すべき傾向と感じております。 また、私はゲストの小原先生がKALSに勤務されていた頃に、研究、教育、育児などにお忙しくされている姿を見て、漠然と、大変そうだなと思っていましたが、授業では、先生が、具体的にどのような工夫をされ、ワーク・ライフ・バランスを実現しようとされているのかがわかり、その姿勢に感銘を受けました。 (KALS TA 総合文化研究科博士課程 宮川慎司  

「働きがいやジェンダーを考える」(2020年度Aセメスター 第8回)

全学自由研究ゼミナール及び高度教養特殊演習「働きがいやジェンダーを考える」のTAによる感想です。

授業の概要

アクティブラーニング部門開講授業「働きがいやジェンダーを考える」(担当教員:伊勢坊綾)では、学生の興味関心に基づき、働きがい、働く上でのジェンダーの問題に関する論文や文献を輪読し、ディスカッションを行っています。

ゲスト講師の紹介

第8回のゲストは、東京都立大学子ども・若者貧困研究センター 特任助教の川口遼先生です。川口先生は、ジェンダー・セクシュアリティ研究、男性性研究及び家族・労働・福祉の社会学をご専門とされています。また、子どもの貧困に関する調査・政策提言、貧困であることが男児・女児に与える影響の違いについての研究にも従事していらっしゃいます。

川口先生の講義内容

男性学/男性性研究を主題としてご講義いただきました。男性学/男性性研究が、女性学を踏まえた誕生の経緯により、男性性への省察を行うメンズ・フェミニズムと男性自身が抱える問題に着目するメンズリブの2軸をもって発達してきたこと、およびジェンダー秩序論などの理論が提示されてきたことなどをご説明いただきました。その後ディスカッションに向けて、男性学/男性性研究において生じてきた論争をご紹介いただきました。

グループでのディスカッションと発表、質疑応答

川口先生の講義後、グループに分かれて、男性の稼得役割追求の自己脅迫性や、男性であることの特権性および被抑圧性について、意見交換を行いました。活発なグループディスカッションの後、以下のような発表がありました。 ●男性の方が稼ぎが多い方がいいかと言えば、(女性の声として)そうは思わない。自分が稼げていればよく、世帯としての合計で考えればよい ● 稼得役割への過度な期待によって、男性は苦しい ● 労働市場における性差別の問題を抜きにして議論できない ● 労働市場から降りることのリスクは、男性の方が大きい社会構造になっていることが問題 ● 辛いなら降りればよいとなると、降りた男性に向けられる目が女性に比べてきついのではないか。その差が降りにくさに繋がるのではないか ● 降りる際の“ストーリー”を社会で準備することが大事なのではないか ● 地域や学歴によって、“望ましい”/“求められる”男性性が異なるのではないか。筋力等の身体的有能さと、頭脳や仕事上での有能さがあるのではないか ● マッチョイズムに対してコンプレックスを持ちつつ捨てられない男性が多い。そういう人たちはフェミニズムと親和性が低いと感じる。そのプライドを捨てればいいのでは?というのは論理的には正しいけれど、アイデンティティを紐づけていたマッチョイズムに変わる何かを与える必要があるのではないか。 川口先生からは、それぞれの意見や質問に対する応答と、関連する書籍のご紹介をいただきました。最後に、マジョリティ的な立場から問題に関わっていこうとする際、当然のように存在し見えづらい特権と抑圧について意識してほしいとのお言葉をいただき、授業は締めくくられました。

感想

熱心な議論や質問・応答が繰り広げられ、学生さんたちの関心が高いテーマであることがうかがえました。男性性に関する議論は、一般書やメディアで取り上げられることが増えている一方、女性学に比べれば学問として学ぶ機会はまだ決して多くないと思うので、今回川口先生から男性学/男性性研究の概要や理論について盛りだくさんの内容を教えていただけたことで、学術的にこのテーマについて考えるきっかけを掴めた学生さんが多かったのではないかと感じています。 また、この研究分野で生じている論争についても、川口先生は様々な立場からの論を取り上げ、「あなたはどう思う?」と問いかけるようにお話してくださったため、学生さんたちは思考を刺激され、ディスカッションも盛り上がったのだと思います。 これからまさに稼得役割というものを担うようになる学生さんたちにとって、問題や違和感に直面したときに状況を理解し対処していくためのよすがとなり、また他者の困難に気づくためのヒントともなるような知を得られた授業だったのではないかと思います。 (KALS TA 総合文化研究科博士課程 田中李歩  

「働きがいやジェンダーを考える」(2020年度Aセメスター 第7回)

全学自由研究ゼミナール及び高度教養特殊演習「働きがいやジェンダーを考える」のTAによる感想です。

授業の概要

アクティブラーニング部門開講授業「働きがいやジェンダーを考える」(担当教員:伊勢坊綾)では、学生の興味関心に基づき、働きがい、働く上でのジェンダーの問題に関する論文や文献を輪読し、ディスカッションを行っています。

ゲスト講師の紹介

第7回のゲストは、ジャーナリストであり、東京大学教育学研究科博士課程で研究活動をされている中野円佳さんです。中野さんは、東京大学教育学部卒業後、日本経済新聞社に入社されました。育休中に立命館大学で修士号を取得された後、2015年には東京大学の博士課程に入学され、2017年からはシンガポールにお住まいになっています。

文献紹介

今回の授業で輪読した『「育休世代」のジレンマ:女性活用はなぜ失敗するのか?』は、中野さんの修士論文の内容がもとになっています。この本は、産休や育休といった制度が整えられつつあるように見えるにもかかわらず、総合職に就職した多くの女性が出産を機に離職してしまうことの原因を、総合職として入社し、出産を経験した15人の女性へのインタビューから解明したものです。

文献発表と質疑応答

4名の学生が文献発表し、その後、受講した学生さんたち一人一人から、たくさんの質問が寄せられました。たとえば、以下のような質問がありました。 ●育児に関する問題には、教育や意識の変化といった長い時間かかる方策が必要となるが、たとえば科学技術などを使った短期間での解決策はあるか? ●家事を夫に任せるより母親が行ってしまった方が早い、という本書の一部分に関して、インタビューをした母親たちはこれに関して問題意識を持っていたのか? ●女性は優秀でないと企業に残ることは難しいのか? 最後に中野さんからは、新型コロナウイルスの流行で在宅勤務が進んだ側面やMeTooなどの動きも経て声をあげるということがしやすくなってきたという変化もあるので、本には様々な場面で抑圧がかかると書いたが企業のことをよく調べて選び取ったり変えて行ったりしていってほしいという言葉をいただき、授業は締めくくられました。

感想

学生からの「読みたい」というリクエストで決定した文献で、その著者がゲスト講師としてお越しになり学生からの問いに答えるという、意義深い授業でした。 授業では、学生さんたちの熱意にとても驚かされました。みなさん本の内容をよく読みこんだ上で質問しており、また授業終了後も残って質問をする方が多く、育児にまつわる問題への関心の高さを実感しました。 また、「私自身が就職活動をする中で、ある会社の育休などの制度が、実際にどの程度機能しているかをどう見分ければいいのか」など、本の内容を自分事に引き付けて質問している方も多く見られました。講師の先生から得た知見をもとに自分の意見を発展させる、というこの授業の狙いがよく達成されていると感じました。 (KALS TA 総合文化研究科博士課程 宮川慎司  

「学生がつくる大学の授業」(2017年度 第11~13回)

以下は、全学自由研究ゼミナール「学生がつくる大学の授業」のTAによる感想です。授業の概要の詳細はこちらをご覧ください。

第11回~第12回反転授業の実施

いよいよ反転授業の実施です!第11回では理系チームが、第12回では文系チームがそれぞれこれまで準備してきた反転授業を実施しました。授業の実施には、反転授業に興味を持っていただいた6名の参加者(学部生・院生)にそれぞれご協力いただきました。 授業開始前、学生は緊張の面持ちでしたが、一旦授業が始まると、堂々とプレゼンテーション/ファシリテーションをしていたように思います。   反転授業が終わった後、各授業に対して参加者・教員からフィードバックを行いました。反転授業を受けた経験のある参加者は少なく、新鮮さを感じた方が多かったようです。しかし一方で、「ディスカッション形式の対面授業で本当に到達目標が達成できたのか」「対面授業を行うにあたり動画の内容が不十分ではないか」といった意見もあり、アクティブラーニング形式の授業を進める上でのファシリテーションの難しさや、反転授業に特有な動画授業と対面授業の接続の難しさを学生は痛感している様子でした。

第13回 ふりかえり

本コースの最後に、これまでのふりかえりを行いました。第1回~第12回までに学んだ内容を一通り確認したのち、「大学における反転授業の導入に賛成か反対か?」という課題に取り組みました。最終的には、その場にいた学生全員が「条件付きで賛成」という結論に達しました。授業に参加した学生は、12回の授業を通じて反転授業導入における問題点(教員の準備が大変、大人数だとやりにくい、教員のモチベーションに依存する等)を十分に理解した上で、反転授業の形式に一定の効果がある(学生が楽しく主体的に学べる等)ということを肌で感じ取ることができたようです。

全体をふりかえって

この授業は「受講者が実際に反転授業をデザインし、実施する」という、学生の視点から見れば非常に「重い」授業でしたが、新しい授業スタイルを模索するべく集まった6名の学生は、授業のデザインから実施までを最後までやり遂げました。私も理系チームと一緒に授業づくりをアシストしていましたが、学生は準備のために授業外で多くの時間を割く必要があり、本当に大変だったと思います。 私自身も本授業を通じて、「学習の理解が深まる」といった反転授業導入のメリットを肌で実感しました。一方で、反転授業作成の大変さや注意しなければいけないポイントの多さは、従来型の講義を遥かに凌ぐように思いました。したがって、反転授業が成功するかどうかは、その教員のモチベーションと授業設計にかかっているといっても過言ではないように思います。 こういった新しい授業スタイルのメリットやデメリットが十分に理解された上で、ぜひこの「反転授業」という形式を活かした授業が広まって欲しいと思います。 (薬学系研究科博士課程 木崎速人

全学自由研究ゼミナール「学生がつくる大学の授業」の概要はこちらをご覧ください。

 

「学生がつくる大学の授業」(2017年度 第5~10回)

以下は、全学自由研究ゼミナール「学生がつくる大学の授業」のTAによる感想です。授業の概要の詳細はこちらをご覧ください。

第5回~第6回 ミニレクチャ

第5回、第6回は反転授業を作るための授業コンテンツを、平岡秀一先生(理系)、田村隆先生(文系)にご提供いただきました。理系は化学反応に関する内容、文系は古典に関する内容です。30分間のミニレクチャを先生からご提供いただいた後、各グループに分かれて、ミニレクチャの内容の理解に努めました。     第7回以降の授業では、受講生が2つのグループ(理系チーム、文系チーム)に分かれて、反転授業の制作と実施の準備に取り掛かります。さまざまな授業展開が考えられそうな内容ですので、どんな反転授業ができるのかがとても楽しみです!

第7回~第10回 反転授業のコンテンツ制作と実施準備

第7回以降は、いよいよ反転授業のコンテンツ制作です。ここからは私は理系チームにはりつき、授業づくりのサポートを行いました。第7回〜第10回の授業では、105分間のほぼすべての時間を反転授業制作・改善のためのディスカッションに充てました。105分間をディスカッションに使うという授業体験は私にとって初めてで、とても新鮮な体験でした。 上述の通り、理系チームの反転授業の内容は化学反応(エステル化と加水分解)を題材としたものであり、平衡や反応機構、構造の理論といったさまざまな観点から授業をつくることが可能でした。チーム内の学生が自分の考える授業デザインの意見を出し合い、ときには激しくぶつかり、ときには意見を磨り合わせながら、少しずつ授業の全体像と詳細が決まっていきました。     今回の反転授業の作成・実施に臨むにあたり、ある学生は、30分の授業のたった1つの平衡反応を理解するために、何時間もその内容を勉強したとのことでした。その学生は「対面授業で学生のリアクションに対して正しく返答できないと学生の授業の満足度が下がってしまう。したがって、1のことを教えるためにはその背景に潜む10のことを知っておく必要がある」と言っていました。理系チームにいた学生は皆同様のことを実感してくれた様子で、こういった反転授業の制作とブラッシュアップのプロセスを通じて、1つの授業をつくることの難しさ・大変さを痛感していたようです。 さて、いよいよ第11回・第12回は反転授業の実施です。学生のみなさんはさまざまな不安を抱えている様子でしたが、ぜひとも楽しんで当日の対面授業に取り組んでもらえたらと思います!ここまで準備してきた学生の努力が実を結ぶように祈っています。 (薬学系研究科博士課程 木崎速人

全学自由研究ゼミナール「学生がつくる大学の授業」の概要はこちらをご覧ください。