SGDsを学べる授業をつくろう(2022年度Sセメスター)

全学自由研究ゼミナール/高度教養特殊演習「SDGsを学べる授業をつくろう」(2022年度Sセメスター)の授業の様子を紹介します。受講者は、受講生は7名(2年生2名、3年生3名、4年生2名)でした。 担当教員:中澤明子・中村長史(総合文化研究科・教養学部附属教養教育高度化機構)

概要

持続可能な開発目標(SDGs)は、ミレニアム開発目標(MDGs)の後継として2015年の国連総会で採択され、17の目標が定められています。MDGsが途上国の貧困削減や社会開発に焦点を当てていたのに対し、SDGsは世界中の国々の経済・社会・環境といったより広い問題を扱うものです。その広さゆえ総花的であるという批判もある一方、多くのアクターを巻き込めるという利点も指摘されています。 この授業では、このようなSDGsについて高校生が効果的に学べるオンライン授業を設計してみることで、SDGsについての自分自身の学びを深めることを目指します。

授業の目的・目標

この授業の目的は、SDGsについて高校生が効果的に学べるオンライン授業を設計してみることで、SDGsについての自分自身の学びを深めることでした。他者に教えることそのものや、オンライン授業を設計する過程での調査や議論は、本人にとって最も身につく学びとなります。また、この授業では「効果的に学べる」ためにアクティブラーニングという手法を用いたオンライン授業を設計することを目指しました。 授業の目標は、以下の6点でした。
  1. SDGsが作成された背景について説明することができる
  2. SDGsの意義について説明することができる
  3. SDGsの課題について説明することができる
  4. SDGsの17の目標について説明することができる
  5. 学習者の学びを深める授業の方法について説明できる
  6. SDGsについて学習者の学びを深める50分間のオンライン授業を設計することができる

授業の流れ

本授業は、大きく二つの内容から構成されています。

第1部:SDGsを学ぶ

第2回〜第4回の授業は、SDGs概説として、SDGsに関する講義と議論を行いました。 第2回授業では、SDGsの全体像を把握することを目的としました。まずSDGsの各目標とターゲットを確認しました。その後、各目標やターゲットの関係(結びつきの強弱)と理由を考えて個人で書き出し、それをグループで共有して関係性を話し合って示しました。さらに、関係性を参考にしながらSDGsの意義と課題について議論し、内容をクラス全体で共有しました。 第3回授業では、SDGsの17の目標間の関係を再考することを目的としました。17(も)の目標か定められた経緯を踏まえた上で、17の目標間にどのような関係性があるのかを複数の観点から示した図を引用しつつ、説明しました。また、17の目標間にシナジーやトレードオフがあるかどうかをグループで考えました。 第4回授業では、SDGsの特定の目標について理解することを目的に、目標1(貧困をなくそう)と目標10(人や国の不平等をなくそう)に焦点を当てました。貧困や不平等の現状をデータで確認した後、そうした事態を招いている原因や、対策としての開発援助のありかたについてグループで議論しました。  

第2部:SDGsを教える

第5回以降の授業では、高校生がSDGsについて学べる授業をつくりました。 第5回・第6回授業は、授業設計概説として、授業設計の理論や手順を説明しました。第5回では、授業づくりに必要な知識を確認した後、授業設計の手順の概要を説明しました。その後、ジグソー法を用いて授業設計手順の詳細を相互説明し、練習として「食堂の使い方を理解する授業」を考えました。第6回授業では、教え方に焦点を当て、学習意欲を高める方法やアクティブラーニングの技法について説明とディスカッションを行いました。 第7回・第8回授業からは、授業のデザインをグループごとに開始しました。授業づくりのワークシートに沿って、「高校生40名が、SDGsについて学べる50分間のオンライン授業」の授業案を考えました。 第9回の中間発表では、グループごとに作成した授業案を発表しました。また発表した内容に対して、「よりよい授業にするには」という観点から相互評価を行い、互いにコメントしました。中間発表後は、相互評価に基づきグループごとに改善点の確認と議論を行いました。 第10回・第11回では、中間発表に基づいた授業案の修正と、講義スライドづくりを行いました。最終発表では、最終的な授業案に加えて、50分間の授業を行う時に使う講義スライドや教材を発表します。そのため、授業案で考えた授業の流れや講義・活動を、講義スライドという形で具体化しました。 第12回では、最終発表を行いました。グループごとに最終的な授業案と講義スライドを提示して発表し相互評価しました。実際の授業は50分間ですが、最終発表では10分間で講義スライドを提示しながら受講生が授業の概要を発表しました。発表後には「よりよい授業にするには」という観点から相互評価を行いました。 第13回の授業では、授業のふり返りを行いました。前半は最終発表に対する相互評価の結果をグループごとに確認し最終発表について良かった点・改善点を話し合いました。授業の後半では、この授業の学習目標である、SDGsの背景・意義・課題についてグループに分かれて考えを整理しました。どのグループも授業全体を踏まえて議論・整理していました。その後、13回の授業を通した一人ひとりの学びを振り返る時間を設けました。具体的には、大福帳を開いて過去の自分の疑問などを確認しながら、授業を通じて何ができるようになったのかを学生一人ひとりが考え、その内容をペアで共有して授業を終えました。  

受講者の感想

第1回授業からの変化

第1回授業と第13回授業終了時とで、SDGsに対する考えや関心の変化、気付きがあったかどうかを尋ねたところ(回答者5名)、次の感想がありました(一部抜粋)。
  • SDGsを所与のものや最終ゴールとしてではなく、世界中の課題を解決するための通過点、今後時代に合わせて別の目標や方法に改善されうるものとして捉えるようになった。
  • SDGsのそれぞれの目標には関連性があることがわかった。
  • 授業前は、SDGsに対して「何となく良いもの」という印象を持っていたが、もちろん意義はある一方で、さまざまな課題点も孕むものであるということに気付かされた。
  • 少なくとも自分が発表で扱った目標に対する理解は深まり、SDGsに関する知識も初回よりは格段に身についたと思います。
  • ただの理想論だと思っていたが、政治的妥協やステークホルダーなどの具体的数値目標や活動などの地に足のついた活動であることが分かった。ただSDGsと口にしたり知識としてもつだけではなく、やはり自分も活動しないとなと感じた。
学生たちなりに、SDGsに対する考えに変化があり、また学習目標である意義と課題についての理解が深まったようです。

SDGsの理解に対する授業づくりの影響

授業づくりがSDGsへの理解を深めることに対して役立ったかどうかを聞いたところ次の感想が得られました。
  • 教えるためには自分が理解していなければならず、授業づくりの中で概論や具体例に触れ、SDGsへの理解が深まった。
  • 自分で理解していることを前提として授業を設計しなければならなかったので、自分でSDGsを理解することとSDGsに関する授業設計を行うことは全くの別作業であると思った。実際に自分の頭の中で体系的にSDGsのそれぞれの目標を整理できる授業設計演習はSDGsへの理解を深めることに大変役立った。
  • 50分の授業1つを設計するという特性上、扱えたのは1つの目標のみだった。そのため、授業で取り上げた目標に対する理解は深まったといえるが、SDGs全体の理解に寄与していたか、と言われると少し微妙な印象を受けた。ただ、時間的制約がある中では仕方のないことだと思うし、全体としてはとても有意義な時間だったと感じている。
  • 誰かに教えるためにはまずSDGsに関する知識を身につけ、生徒にも分かりやすいよう身につけた知識を噛み砕く必要があると感じ、実践しようと試みた。その結果、自分自身のSDGsへの理解も深まったと思う。
  • 授業内で使う具体例を調べる過程でより詳細な情報や周辺情報、自分がターゲットにした目標以外の目標との関係を知ることになった。さらに、分かりやすい授業にしようという中で、SDGsに関する知識が自分の中で一度整理されたこともよかったと思いました。
授業をつくる過程で、自分で調査をすることにより、SDGsに関する情報を得て理解を深めたという記述がありました。一方で、50分の授業をつくったため、授業の中で扱える量に限りがあり、SDGs全体の理解というよりは授業で取り上げた目標への理解が深まったという意見がありました。たしかに、50分の授業では扱える量が少ないため、設定する学習目標によっては一つの内容を深く掘り下げるにとどまってしまうかもしれません。この授業では、SDGsが作成された背景や意義と課題について説明できることが学習目標に含まれています。これらの学習目標と50分の授業づくりとの関連や、授業づくりの焦点の明確化には検討の余地があるかもしれません。 この授業の成果報告として「第3回 東大生がつくるSDGsの授業」を2022年9月に開催しました。1名の受講生がオンラインで実際に高校生に授業を行いました。開催報告はこちらからご覧いただけます。
 

問い合わせ先

教養教育高度化機構 アクティブラーニング部門(担当:中澤明子・中村長史) dalt[at]kals.c.u-tokyo.ac.jp

未来の学びを考える【文献講読編】(2022年度Sセメスター)

全学自由研究ゼミナール/高度教養特殊演習「未来の学びを考える【文献購読編】」(2022年度Sセメスター)の授業の様子を紹介します。受講者は8名(2年生5名、3年生1名、4年生2名)でした。 担当教員:中澤明子(総合文化研究科・教養学部附属教養教育高度化機構)

授業の概要

小学校から大学まで、教育・学習を取り巻く状況は日々変化しています。2000年以降、大学では「アクティブラーニング」や「国際化」などの取り組みが多く行われるようになりました。また初等中等教育(小学・中学・高等学校)でも、「アクティブラーニング」や「GIGAスクール構想」などの取り組みが行われています。それでは、未来の学びはどうなるのでしょうか。 この授業では、教育・学習に関する文献を読み、文献の内容や自身の経験(過去・現在)の意味を理解した上で、「未来の学び(10年後を想定)がどうなるか」について自分なりに考えます。考えた内容をレポートにまとめて提出します。

授業の目的・目標

目的は、本授業の目的は、文献の内容や自身の経験(過去・現在)の意味を理解した上で、「未来の学び(10年後を想定)がどうなるか」について自分なりに考えることです。 目標は以下の4点でした。
  1. 教育・学習に関する文献を読み内容を説明できる
  2. 自分の教育・学習経験を、文献の内容と関連づけて示せる
  3. 「未来の学び」について、クラスのメンバーと議論し、自分の意見を示せる
  4. 文献や自身の経験、学期を通じた議論を踏まえ、自分なりの未来(10年後を想定)の学びのあり方を示せる

授業の流れ

本授業は、大きく三つの内容・活動から構成されています。

1. 学習前の準備

教育・学習に関する文献を読む前の準備として、授業のガイダンス(初回)と「未来の学び」プレ議論(第2回)を行いました。 「未来の学び」プレ議論では、21世紀型スキルやキー・コンピテンシーなどの新しい能力についいてミニレクチャーをした後、「10年後の未来(の学校)では、①生徒は、何を身につける必要があるか?、②教師は、どんな役割を担うのか?、③地域・社会、家庭・保護者、学校・生徒との関係は?」について、ワールドカフェ形式で議論を行いました。議論の後、クラス全体で内容を共有しました。また、ディスカッションの問いを補完する内容として、OECD Learning Compass 2030の内容を紹介しました。

2. 文献講読と「未来の学び」議論

第3回〜第9回の授業では、未来の学びを考える手がかりとなる情報を集めることを目的として、教育・学習の文献をジグソー法で講読し、未来の学びに関する問いについて議論を行いました。読んだ文献は次のものです。
  • 第3回:美馬のゆり・山内祐平(2005)「未来の学び」をデザインする:空間・活動・共同体. 東京大学出版会 の一部
  • 第4回:A.コリンズ・R. ハルバーソン 著、稲垣忠 編訳(2020)デジタル社会の学びのかたち Ver.2. 北大路書房 の一部
  • 第5回:溝上慎一(2018)学習とパーソナリティー「あの子はおとなしいけど成績はいんですよね!」をどう見るか. 東信堂、溝上慎一(2020)社会に生きる個性:自己と他者・拡張的パーソナリティー・エージェンシー. 東信堂、松下佳代・京都大学高等教育研究開発推進センター(2015)ディープ・アクティブラーニング:大学授業を深化させるために. 勁草書房 の一部
  • 第6回:奈須正裕(2021)個別最適な学びと協働的な学び. 東洋館出版社 の一部
  • 第7回:三宅なほみ・東京大学 CoREF・河合塾 編著(2016)協調学習とは:対話を通して理解を深めるアクティブラーニング型授業. 北大路書房 の一部
  • 第8回:山内祐平 編(2010)デジタル教材の教育学. 東京大学出版会、重田勝介(2014)ネットで学ぶ世界の大学MOOC入門. 実業之日本社、ジョナサン・バーグマン、アーロン・サムズ 著、上原裕美子 訳、山内祐平・大浦弘樹 監修(2014)反転授業:基本を宿題で学んでから、授業で追う応力を身につける. オデッセイコミュニケーションズ の一部
  • 第9回:脇本健弘・町支大祐 著、中原淳 監修(2015)教師の学びを科学する:データから見える若手の育成と熟達のモデル. 北大路書房、千々布敏弥(2021)先生たちのリフレクション:主体的・対話的で深い学びに近づく、たった一つの習慣. 教育開発研究所、奈須正裕(2021)個別最適な学びと協働的な学び. 東洋館出版社 の一部
各回で読む資料を三種類用意し、担当資料を決めて読みました。読んだ後、資料ごとにグループを作りエキスパート活動を行いました。その後、ジグソーグループを組んでジグソー活動を行いました。第3回以降の授業は対面授業で行ったため、ジグソー活動での議論の内容をホワイトボードに記入し、それをクラス全体に共有・発表してもらいました。

3. 「未来の学び」を考える

第10回以降の授業では、これまでの自身の経験や文献・議論の内容を踏まえて一人ひとりが「未来の学び」に関する自分の考えを深めていきました。 まず、第10回の授業では、自身の教育・学習に関する経験を、ブロックを使って可視化して相互に説明した後、それまでの授業で扱った文献の内容との関連づけを行いました。文献に出てきたキーワードやトピックをカードにし、ブロックの作品の学びに置くことで関連づけを行いました。この詳細については、こちらのページをご覧ください。 第11回、第12回の授業は、ワールドカフェ風のグループディスカッションを行いました。一人ひとりが、他の人たちに意見をもらいたい問いを提示し、それについてグループメンバーを変えながら複数回の議論を行いました。 この授業の最終的な学習成果物は、全授業終了後に提出してもらうレポートでした。第13回の授業は、最終成果物に向けた状況共有として、その時点で考えている未来の学びを各自が発表し、相互にコメントしあいました。その後、13回の授業全体のふり返りとして、各自が大福帳を見直し、「自分が授業内容に対して何を感じたのか」、「どんな疑問・質問を持っていたのか」、「その疑問・質問は解消されたのか」、「13回の授業を通じて、自分は何ができるようになったのか」を一人ひとりが考え、内容をペアで共有して、授業を終えました。

受講者の感想

最終授業後にアンケートに回答してもらいました(回答者 8名)。 「第3回〜第9回のジグソー法での文献講読は、教育・学習に関するトピックや内容の理解に役立った」(とてもあてはまる〜全くあてはまらないの5件法で回答)については、「とてもあてはまる」5名、「あてはまる」3名でした。また、「授業を受ける前と比べて、教育・学習への興味関心が高まった」という質問については「とてもあてはまる」5名、「あてはまる」3名でした。これらの結果から、授業により内容の理解が深まったことに加え、興味関心が高まったことが窺えます。 一方、「第11回、第12回のワールドカフェ風ディスカッションは、自身の未来の学びを考えるのに役立った」については、「とてもあてはまる」6名、「あてはまる」2名でした。加えてワールドカフェ風ディスカッションへの感想を自由記述で聞いたところ、「回によって新しい視点や議題が登るため、おもしろい。(原文ママ)」、「たくさんの意見を短時間で効率よく収集できること」、「一つの問いに対しても、各セッションにおける他の議論を活かすことができたのが良かった。」、「学生たちが各自異なるテーマを取り上げていたので、自分が普段重きを置かなかったテーマに関しても改めて考えを深めるきっかけとなりました。」といった肯定的なものがあった一方、「ホストの人同士はお互いの考えを聞けない。」、「表面的な乾燥に終わってしまうことも想定される(原文ママ)」、「自分と同じタイミングで司会をやる人の意見が聞けなかったり、別グループの人とのディスカッションができなかったりと、文字通り全員の意見が聞けなかったのが少々物足りなかったです。」といった改善点が挙げられました。特に今回の授業では、受講者が8名と少人数だったため、ワールドカフェ風ディスカッションの利点を最大限に活かすことができませんでした。次に実施する際は、セッション数を増やしたり時間を長くとる等の改善を行いたいと考えています。

問い合わせ先

教養教育高度化機構 アクティブラーニング部門(担当:中澤明子) dalt[at]kals.c.u-tokyo.ac.jp