どうも、遅ればせながら食文化担当の福井です。
ウズベキスタンで有名な料理をピックアップして紹介したいと思います。
「プロフ」「ラグマン」
まずは「プロフ」について書きたいと思います。
(左:プロフ 右:カザンで炒められているプロフ)
「プロフ」は、お祝いの席などで出る米料理で「カザン」と呼ばれる特殊な鍋で作られます。「カザン」は家庭用の小さなものから、数百人用の大きなものまで様々な大きさのものがあります。「プロフ」で米料理っていえば、みなさんご存知、あの料理名に似てるなと思った方もいるのではないでしょうか。そう、「ピラフ」です。プロフもピラフも似たような料理で、トルコではピラフ、ウズベキスタンではプロフ、ウイグル地方ではポロなどと呼ばれるようです。調理方法としては、カザンにたっぷり綿花油を入れ、お米、羊肉、にんじん、たまねぎなどをじっくり炒めるという非常にシンプルなものです。地方によって、赤いにんじんを使う地域や、黄色のにんじんを使う地域、またその両方を使う地域などがあり、同じ料理であってもその見た目は微妙に異なります。地域による見た目の違いには、盛りつけ方も影響しています。具と米をチャーハンのように混ぜてしまう地方や、米の上に炒めた野菜を盛りつける地方など、プロフを食べているだけでもその地域地域の変化を楽しめるのではないかと思います。街中でプロフを食べる場合の注意点として、なるべくその日の早い時間帯に食べるということがあります。先ほど書いたように、プロフはたっぷり鍋に油を注いで作ります。ということは、午後になると、下の方にある油に浸かったようなプロフを食べることになり、日本食を食べ慣れている日本人には少々辛いものがあるようです。
続いては、ウズベキスタンに行った日本人に大人気の「ラグマン」です。
(左:ラグマン 右:日本の肉うどん)
先に書いた「プロフ」と違い、「ラグマン」とだけ聞くと、何のことやらさっぱり分からない方も多いのではないでしょうか。ラグマン(ラグメンと呼ばれることも)は、日本の肉うどんによく似た麺料理で、讃岐うどんのようなコシのある麺が特徴です。ここでも肉としては、羊肉が主に用いられます。見た目も味も日本人が抵抗を受けない仕上がりになっているのが人気の要因ではないしょうか。内地に行くと、どんぶりのようなお椀で汁に浸ったラグマンもあるため、さらに肉うどんに似た様相を呈してきます。詳しい調理方法や材料については、このブログの初期に書いた記事を参考にしていただければと思います。
文科二類二年 福井康介
先の記事で先日作ったラグマンについて深く掘り下げた。ウズベキスタンの食文化の中には他にも興味深い料理や習慣がたくさんある。今回の記事では、一つの料理ではなく色々な料理などについて俯瞰的に説明していこうと思う。
・ラグマン
(↓新宿のウイグル料理店「タリム」のラグメン)
先日の記事でラグマンはトマトベースのスープであると述べた。ウズベキスタンでは、レシピで再現してみる限りスパイスのきいたカレーとイタリアンのトマトソースの中間のような味であった。しかし、先日ウイグル料理店「タリム」で食べたウイグルの「ラグメン」はスープはウズベキスタンのものと類似しているものの、酢の類のものがスープに加えられており、酸味があった。イメージとしては冷やし中華のつゆのような味である。こうした酸味をもつ料理は、酢豚など中華料理によく見られる。やはり、ウイグル自治区と中国が近くなるにつれ、中華料理の影響が出始めているものと思われる。また麺も、ウズベキスタンのものは讃岐うどんやきしめんのようにやや幅広のめんであったが、ウイグルのものはスパゲッティや山手らーめんの麺のような真円形の断面をもつ麺であった。またスープの量もウズベキスタンでは比較的多いのに対し、ウイグルでは平皿に乗る程度である。これも地域間の水の得やすさが影響しているのではないかと思われる。
・プロフ
(↓新宿のウイグル料理店「タリム」のポロ)
プロフはクミンやコリアンダーなどのスパイスをきかせた炊き込みご飯である。ウズベキスタンでは広く日常的に食され、通りに大なべでプロフをつくる屋台が多く出ているほどである。プロフが食されているのはほぼラグマンと同じ地域であるがウイグル自治区ではやはり名前を変え、「ポロ」という名前になる。中央アジア地域ではニンジンや羊肉のブロック、レーズンなどの具が入るがウイグル自治区ではこれにヨーグルトのような乳発酵製品のソースをかけて食べる。ご飯に乳製品をかけて食べると言うのは日本からするととても奇異なものに思えるかもしれないが、比較的脂っこいプロフをさっぱりと食べることができる。なお、ウズベキスタンではトマトのサラダなどと一緒に食べられることが多い。またプロフは西に行くと「ピラフ」と名を変え我々のよく知っている料理となる。
・ナン
(↓ウズベキスタンのノン)
ナンと言われると、日本人はインド料理屋で出される朴の葉のような形のパンが思い浮かべられると思う。ウズベキスタンのナンはノンとよばれ、インドのナンとは全く別のものである。形は真円形で外側がかなり厚くなっており真ん中は薄い。またインドのナンのようにもちもちとした触感はなく、むしろ密度の高い食パンのようである。
・茶
茶の原産地は中国南部である。中国ではラプサンスーチョンという紅茶や緑茶、白茶、黒茶など種々の茶、インドではシッキムやダージリン、アッサムなど多くの紅茶が栽培され、またよく飲まれている。中国からシルクロードで繋がっている西域、中央アジア地域、そしてもちろん茶の生産の盛んな南アジア地域にも飲茶の習慣がある。
ウズベキスタンでは、茶はチャイまたはチョイと呼ばれる。チャイという名前には聞きおぼえがある人もいるだろう。またまたインド料理屋に行きチャイというものを頼むと、スパイスのきいた甘いミルクティーが出てくる。ウズベキスタンの茶は、チャイと名前は同じであるものの、インドのそれとはまったく違いふつうストレートで飲む。このチャイの淹れ方は日本と言うよりは中国茶に近い。ゴクチャイと呼ばれる緑茶(ただし、緑茶と言っても日本の緑茶とは全く違うものである)は茶碗にまずそそぎ、それをポットに3回ほど戻し、さらに数分間蒸らしてから飲まれる。
またキルギスやウズベキスタンではチャイハナと呼ばれる喫茶店が街にあり、木陰や店内などで喫茶を楽しむ市民の憩いの場となっている。
このように、ごく僅かの紹介となってしまったが、先に紹介したラグマン以外にもウズベキスタンでは食文化には他地域と比べて類似性、また独自性がある。ウズベキスタンの訪問では、この日本とは全く違う文化に触れ、またシルクロードの終点日本の文化の源流ともいうべき、ウズベキスタンの文化を肌で感じることによって自国のことを見つめ直すきっかけになれば、と思う。
○参考文献など
世界の料理 サカイ優佳子・田平恵美 編
食料の世界地図 大賀圭治 監訳 中山里美・高田直也 訳
(文、写真:理科二類二年 間下)
ウズベキスタンはシルクロードの要衝に位置する。先日世界文化遺産に登録された岩手県平泉の中尊寺にはこの辺りの地で特産するラピスラズリが装飾につかわれていたり、奈良などの寺社にはギリシャなどの西洋から中央アジアを通って伝わった建築様式や仏像などが見られるなど、古くから東洋と西洋の文化が行き交い、また交流してきた場所である。
行き交っているのは、自社の建築様式や特産品だけではない。ウズベキスタンやアジア、ヨーロッパの食文化を比較すると、シルクロードを経て東西が交流している様子を見ることができる。
まずは、先日僕と福井で作った、ラグマンについてみて行きたいと思う。(ラグマンの料理レポートについては
こちらをご覧ください。)
(↓ラグマン)
ラグマンはウズベキスタンを代表する料理と言っても過言ではない。スパイスをきかせたトマトベースのスープで羊肉や野菜を煮て、その中に日本でいうところの讃岐うどんに似た麺を入れたものである。
この料理についても、西洋や東洋から受けた影響、またそれらに与えた影響がみられる。
まずは、麺。麺料理についてはイタリアのパスタからベトナムのフォー、日本のうどんなどシルクロードが通っていた地域やその周辺地域によくみられる。ラグマンの麺は、先程日本で言えば讃岐うどんに似ていると述べたが、作り方や見た目も似ている。(ただし、讃岐うどんは中力粉を使うが、ラグマンは強力粉を使う。)また製麺の方法も、伸ばして乾燥させる素麺や弦のようなものに押し当てて細くするイタリアのギターラ、ミンチ機のようなものから押し出してお湯の中に入れる韓国の冷麺など数々の方法が世界には見られるが、ラグマンもさぬきうどんも生地をのばして包丁で切っていく方法である。
次に、具。具に用いられるのは羊肉、にんにく、ピーマン、じゃがいも、ひよこ豆など、中央アジア地域でよく取れるものである。ここは各地から流入してきた文化が土地の気候風土に合わせて成長している面であると言える。ひよこ豆はイスラエルのフムスという料理など、西アジア地域でも食べられている。
スープには、トマトがベースに用いられていると述べた。トマトが日本で食用になったのは明治以降であるようにトマトは西洋方面からの流入である。実際、イタリアのパスタにはトマトソースがよく用いられ、ロシアの世界的にも有名な料理であるボルシチやビーフストロガノフにもトマトが用いられている。また西アジアのイスラエルでよく食べられるシャクシュカという料理もトマトに香辛料を入れたスープが用いられ、トマトが味の主たる部分を占めている。
トマトがよく料理に用いられる地域の特徴として、エジプトやイタリア、イスラエルなどの地中海性気候の地域、そしてウズベキスタンなどのステップ気候の地域と、比較的乾燥しているという点があげられる。こうした地域でトマトがよく食べられているのは、トマトには多くの水分が含まれ、乾燥地域ににおいて水分が摂取できること、また酸味が強いので羊肉の臭みを消し、かつスパイスとの相性のもいいからではないかと思う。
ラグマンに使われるスパイスはクミンシードやコリアンダー、ローリエなどがある。特にクミンシードは「とりあえずクミンシードを入れておけばそれらしい味になる」と言われるほど、現地では多用されているスパイスである。実際、プロフやサモサ、マシュフルダやシャシリクなどの料理のレシピを見ると、ほとんどすべての料理でクミンシードの文字がみられる。
(↓日暮里の中央アジア料理店「ザクロ」のサモサ)
ここまでウズベキスタンのラグマンについて述べたが、ラグマンという料理は中央アジア全域で見ることができる。また、中国のウイグル自治区にもラグメンという名で類似の料理が存在する。(これは先日新宿のウイグル料理店「タリム」で実際食べる機会に恵まれた。それについては後日また報告しようと思う。)
ラグマンは東に行くと拉麺と名前を変え、さらに東に行きラーメンという名で日本に広く存在している。
中国や日本など東洋発の麺と、トマトやスパイスなどヨーロッパ・西アジア発の食材を用いたスープが出会い、そして中央アジアでよく食べられる羊肉を具として一つの料理が出来上がっている。ラグマンという料理ひとつをとってみても、シルクロードという壮大なルートを通した東洋と西洋の文化交流の歴史を見ることができる。
今回のウズベキスタン訪問では、ここまで大きな交流とはもちろん行かないが、ウズベキスタンと日本の文化交流が図れたらと思う。
○参考文献など
食事の歴史 先史から現代まで ポール・フリードマン編 南直人+山辺規子 監訳
世界の食事おもしろ図鑑 森枝卓士
家庭で作れるロシア料理 荻野恭子 料理 沼野恭子 エッセイ
世界の料理 サカイ優佳子・田平恵美 編
「讃岐うどんの作り方」 http://www.flour-net.com/archives/2007/06/post_18.html
(文、写真:理科二類二年 間下)
こんにちは!食文化班の福井と間下です。
先日、ウズベキスタンの伝統料理・ラグマンを作ってみたのでその報告をしたいと思います。
まずは「ラグマン」とは何か説明しましょう。
ラグマンとは、ウズベキスタンをはじめとする中央アジア地域、および中国のウイグル自治区などで
日常的に食べられている麺料理で
イメージとしては、トマトとラム肉のスープを使った讃岐うどんという感じです。
また、ラグマンという名前からもわかるように、ラーメンのルーツとなった料理であるとも言われています。
***
今回、大鬼からこの写真を託された。
大鬼とは、ゼミを統括する岡田先生のことである。
ウズベキスタンで大鬼が食べたこれを日本で再現してみよというのが今回の指令。
我々は戦慄した。
「こんなものが作れるのか?」
しかし我々は作らねばならなかった。大鬼の指令には逆らうことは許されない。
我々は足早にオオゼキ下北沢店に向かった。
今回用意したのはこちらの材料である。
秘伝のスパイスは大鬼がウズベキスタンより持ち帰った本格派であり
さらに本場のナンのおまけつきだ。その点実に気前が良い。
(なお、秘伝のスパイスはクミンシードであることが後で判明した。)
見たこともない材料達を前にして、
これでお料理系男子への仲間入りだ。我々は希望に胸を躍らせていた。
おもむろに包丁をとり、
タマネギ、青唐辛子、にんにく、ピーマン、パプリカ、ズッキーニといった野菜を切り始めた。
そして炒めた。
今回、フライパンの容量の関係でにんにく青唐辛子、たまねぎ、パプリカ、羊肉は別々に炒めることとなった。
まずにんにく青唐辛子で油(今回はサラダ油を使用した)に香り付けをした後
たまねぎをきつね色になるまで炒める。
そこにパプリカとピーマンを入れ
さらにその後羊肉をいためた(羊肉はブロックのものがよかったが、今回は手に入らなかったのでスライスのものを使用した)
このとき同時に、鍋には1500ccの水とローリエ、コンソメを入れ煮立たせる。
時計を見れば、すでに夜の1時過ぎ。
立ち上るローリエの良いにおいに「中央アジアの香りがするッ!」と狂喜乱舞していた。これが巷で言う深夜テンションである。
そしてついに、スープと野菜が邂逅するときが来た。
ぐつぐつと煮込まれていく野菜たちに我々は夏に向かうウズベキスタンへの思いを重ねていた。
鍋からは湯気とともに、美味しそうなにおいが立ち上る。食欲へきつい一撃を加える。
我々は今か今かと煮込み終わるのを心待ちにしていた。
そして、キッチンタイマーがついにその時を告げた。
さあ、盛りつけである。
人は顔が9割と言われるが、盛りつけも同じである。失敗は許されない。
別にゆでておいた讃岐うどんにできあがった具とスープを盛りつける。
細心の注意を払い、具をOn The UDONした。
さあ、みたまえこの類似性を。
我々は大鬼の指令を見事遂行することができた。
遂行された任務ほど語るに足らないものはない。
とは言うものの、食べた感想も記しておきたい。
まず、少々水を入れすぎたため少し味が薄くなってしまった。
さらに、青唐辛子を入れすぎたせいで少々味が辛くなってしまった。
やはり、きちんと各々の材料の分量は守らなければならない。
報告はここまでで終わりとしよう。
反省は色々とあった。
だが、我々は確かにこの料理の中にウズベキスタンの空気を感じることができた。
また一歩ウズベキスタンに近づいたのだ。
我々は作り続ける。遙かなるウズベキスタンを目指して。
※次回はプロフに挑戦します。
(文、写真:文科二類二年 福井・理科二類二年 間下)